ノンテクニカルサマリー

FTAのサービス貿易に与える経済的影響:東アジアにおける実証分析

執筆者 石戸 光 (千葉大学)
研究プロジェクト 通商協定の経済学的分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「通商協定の経済学的分析」プロジェクト

研究の背景と意義

サービス産業はグローバリゼーションの進展に伴って近年実態経済において大きく拡大しており、日本の場合には2011年数値で生産GDPのほぼ75%を占めている。しかしサービス貿易は(統計上的な捕捉不備の問題があるものの)財貿易の4分の1程度に過ぎず、さらなるサービス貿易の拡大は日本の経済成長戦略として自然かつ必要不可欠なものである。特にサービス活動には卸売サービス、輸送サービス、情報通信サービスなどを考えると明らかなように、「サポーティング・インダストリー」として製造業を中心とした他の経済活動を支え、促進させる効果が期待される。そこで本研究では、日本の締結したFTA(EPA)によるサービス貿易拡大の可能性に関して、特に「商業拠点の設立」(WTOの用語では「第3モード」)の新規件数に着目して実証研究を行い、併せてサービス貿易の財貿易との差異に関する理論的な考察を行った。

研究内容と成果

分析にあたってサービス貿易の統計の概観が必要であるが、国ごとのマクロなサービス貿易統計(国際収支統計上のもの)は第1モード(IT等を用いた越境取引)のみを掲載しているため、統計上の不備は避けられない。しかしこれが現状で得られる限りのデータであるため、このデータの収集・整理を行うことで、サービス関連FTAによる政策措置との関連性をまず概観し、サービス業の第3モードにおける日系企業の活動と製造業の新規投資には一定の正の相関関係があることが見いだされた。

またサービス貿易自由化の政策を指数化してみたところ、日本のFTAサービス貿易の自由化度は絶対的には依然として低いものの、FTA(EPA)によりWTOのGATS(サービス貿易一般協定)を超えた自由化約束が少なからず行われていることが見いだされた。

続いていくつかのサービス産業の事業所レベルの投資決定に関するパネル等のデータセットを作成した上で、通商政策によるサービス規制の与えるサービス提供構造への効果について定量分析を行った結果、サービス貿易の自由化を含む日本のASEAN諸国(締結順にシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンおよびベトナム)との二国間EPAの締結により、全体的に日系サービス企業による投資は拡大してきている点が観察された(下記の表を参照。ただし現状ではFTA(EPA)の締結後にサービス分野で投資を行った企業の件数が限られているため、今後のさらなる効果検証が待たれる)。

政策的インプリケーション

FTA(EPA)締結により市場は大きく拡大するため、比較優位を持つサービス分野も同様に大きく海外進出を拡大する効果が期待される。その際の産業調整費用(雇用吸収を含め)さえ担保されるのであれば、サービス貿易の障壁を下げていくことが望ましい。したがって今後FTA(EPA)を巡る政策として、「線」としての二国間のEPAを発展解消して、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)による「面的」なサービス貿易の自由化努力が望ましい。これによって特に第3モード(商業拠点の設立を通じた市場開放)が大きく進展していくことが予測され、このことはホスト国の投資環境を改善し、また雇用を吸収することにもつながろう。特にWTOにおける多角的サービス自由化交渉が停滞する中、日本の「成長戦略」の一環として、RCEPを含めた「広域FTA」におけるサービス貿易自由化の持ちうるプラスの経済効果には大きく期待することができる。

図:日本の締結した二国間FTA(EPA)によるサービス投資への効果
図:日本の締結した二国間FTA(EPA)によるサービス投資への効果