ノンテクニカルサマリー

外資系企業と研究開発投資

執筆者 権 赫旭 (ファカルティフェロー)
朴 廷洙 (西江大学)
研究プロジェクト 東アジア企業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア企業生産性」プロジェクト

近年、日本は、規制緩和が進んでいる金融業、通信業、小売業やサービス業だけではなく、機械と化学産業のような製造業部門においても、外資系企業による対内直接投資ブームを経験した。日本への直接投資のほとんどはM&Aの形態である。国境を越えて行われるM&Aには、短期的利益を得るために困難に陥った企業の良い部分だけを収奪するハゲタカファンドによる支配への危惧が存在する。

しかし、海外直接投資の増加は、生産能力の増加と雇用創出を通じてホスト国に便益をもたらすことがよく知られている。さらに、先進国からの対内直接投資は技術スピルオーバー効果をもたらし、ホスト国企業の効率性を高める。このような便益は外資系企業が持つ生産性と革新的な能力の優位性の程度に依存する。従って、外資系企業の研究開発活動が国内企業と異なるかどうかを確認することが主要な課題となる。

本論文は2000年から2008年の間の『企業活動基本調査』の個票データを用いて研究開発活動に関する次の2つの課題を実証的に調べる。第1に、外資系企業が研究開発活動を行う理由は外資効果と統合効果にあるため、本論文ではこの2つの効果を適切に分離することを試みる。まず、統合効果を検証して統合効果をコントロールした上で、研究開発活動に関する外資効果を検証する。第2に、統合効果が、垂直的か水平的かという統合の性質に依存するかについて検証する。

図は所有構造の形態によって平均研究開発集約度(研究開発支出額/売上高)が異なることを示している。外資系企業は日本の独立系企業や子会社より平均的に高い研究開発集約度を持っていることがわかる。特に、G7以外の国からきた外資系企業の研究開発集約度が最も高いことを示している。

図:所有構造別平均研究開発集約度
図:所有構造別平均研究開発集約度

分析の結果、我々は、子会社として統合された企業の研究開発活動は、親企業の国籍にかかわらず、独立系企業の研究開発活動より少ないことを発見した。更に、G7からの外資系親企業が研究開発活動に及ぼす効果は統計的に有意ではなく、統合効果だけが研究開発活動に負の影響を及ぼすことが分かった。しかし、G7以外(主に、オランダ、スイス、香港、台湾、中国、インド)からの外資系親企業が研究開発活動に及ぼす純効果は正である。これは外資による正の効果が負の統合効果を上回るためである。また、統合の性質を分けてみると、負の統合効果は垂直的な統合の場合が水平的な統合より強いことがわかった。

上記の結果から、技術的優位な国からのFDIはホスト国の研究開発を減少させるが、この現象は外資効果からではなく、統合効果によるものであることが分かった。また、外資系の中で、G7以外の技術的劣位な国からのFDIはホスト国の研究開発を増加させることが分かった。これは技術的劣位な国からのFDIの目的が先端技術を吸収することにあることを示唆する。

最近、日本への直接投資を積極的に行う政策が採られているが、以上の結果は、M&Aの形での対内直接投資は日本国内の研究開発活動を減少させる可能性もあることを示唆している。ただし、本稿の分析はあくまでも当該企業の研究開発集約度を比較したものであり、外資系企業の研究開発が国内企業に対して正のスピルオーバー効果を持つ可能性を排除するものではない。