執筆者 |
Klaus DESMET (Universidad Carlos III) Esteban ROSSI-HANSBERG (Princeton University) |
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研究プロジェクト | 都市の成長と空間構造に関する理論と実証 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「都市の成長と空間構造に関する理論と実証」プロジェクト
本稿では、気候変動による経済への負の影響は、主としてヒトとモノの自由な移動を阻害する摩擦によって生じる傾向にあると指摘している。すなわち、仮にそうした摩擦が存在しなければ、今日の観点からすれば気候変動はそれほど心配の種にはならないというわけである。今後200年間で人為的原因により気温が4度から8度上昇するだろうという一般的な試算は、赤道と北極点のあいだに約30度ある気温差よりもはるかに小さいという点に立脚して研究を始める。ある地域は暑くなりすぎて高い生産性を維持できなくなるかもしれないが、他の地域では生産性の上昇が期待されると考えられる。ヒトが移動できる限りは、地球温暖化による影響は限定的であるはずである。もちろん、移動できる物理的空間が存在しなければ、影響が大きくなりうる。G-Econ 4.0によると、2005年時点で、世界の人口の72%が世界の土地の10%の面積に居住している。GDPに換算すると、90%を上回る。つまり、地球温暖化により、世界の土地の一部が経済的に使用不能になったとしても、もともと大半の土地が利用されていないため、甚大な生産の損失につながる可能性は低いのである。こうした点から、気候変動に起因する大きな損失は、インフラや資本、さらには本研究において強調する技術やヒトの貿易や移動における摩擦に関係するはずだと考えられる。
我々は、気候変動のコストを定量的に分析するために、世界の二部門空間成長モデルと、生産が二酸化炭素の排出と地球温暖化をもたらす気候変動の標準モデルを組み合わせることを提案する。気温の上昇は緯度によって異なり、生産性への影響は製造業より農業の方が大きいといえる。モデルのカリブレーションを行い、移動に関していくつかの仮定を設け、気候変動の影響を比較した。
最初に、自由な貿易と人口移動を仮定した。気候変動に関する政府間パネル(IPPC)は、気候変動がない場合と比較して、地球温暖化は、農業生産が今後200年間に約1000キロ北へ移動することを余儀なくされると予測している。これを緯度に置き換えると、マドリードからパリ、あるいはムンバイからデリーへの距離に匹敵する。ただし過去において、国境を超える大規模な人口移動が容易であったことはなく、コストを伴わなかったこともない。そこで次に、45度線に国境があると仮定し、北と南の間の人口移動は不可能であると仮定した。IPCCによる気候変動に関する予測を採用した場合、45度線に国境を設けることで、地球温暖化による効用への影響は、自由な人口移動の場合よりも平均で0.3%低下する。地球温暖化が南北の効用格差に与える影響はさらに大きく、3.9ポイント上昇する。気温の上昇に関するシナリオをより極端にした場合、地球温暖化による負の影響は国境の設定により2.9%も大きくなり、南北の効用格差は11ポイント以上も拡がる。国境を45度に設けるのではなく、人口移動がまったくないという極端な仮定も考えられる。つまり、現在の人口を固定して、今後200年間移動しないという仮定である。この場合には、緯度間の厚生格差は拡大し、現在価値に換算すると、北極地域の方が赤道地域よりも最高で2倍豊かになる。
本モデルに炭素税を導入すると、正の効果をもたらすことになるので、厚生水準が3~5%向上する。これにより地理的集中が進行し、革新および厚生が高まることが予想される。革新に対して助成金を供給することも魅力的になり得るが、炭素税とは対照的に、地球温暖化の規模が大きいほどその効果は小さくなる。問題は、未来は暑すぎて生産に向かない地域で、現在革新が行われているということである。気温の上昇により生産が北へシフトするため、過去の革新は無用になる。そうした意味では、革新への助成金は、気候変動による負の影響の軽減につながらない可能性がある。
したがって、地球温暖化に対処するためには、炭素税の導入が望ましい政策であると考えられる。ただし、適応手段として「移動する」という昔ながらの戦略も忘れてはならない。グリーンランドへの移住を現段階で計画している人はいないかもしれないが、気候変動に関する政策協議は、人口移動や貿易に関する規制緩和を模索することに重点を置きつつ開始すべきである。こうした摩擦は、地球温暖化に伴う経済的費用の把握にとっては欠かすことができないのである。