ノンテクニカルサマリー

製造業における日本の多国籍企業による為替変化への貿易調整:企業内・企業間取引

執筆者 安藤 光代 (慶應義塾大学)
木村 福成 (慶應義塾大学 / ERIA)
研究プロジェクト 我が国の企業間生産性格差の規定要因:ミクロデータを用いた実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「我が国の企業間生産性格差の規定要因:ミクロデータを用いた実証分析」プロジェクト

企業活動がグローバル化し、世界各地で国際分業の深化が進んでいる。そのような世界経済の中で、為替レートの変化に対し、企業はどのように対応しているのだろうか。また、どのような企業においてそのような調整が大きく働いているのだろうか。図1は、1980年以降の日本の為替レート(対米ドルの為替レートと実質実効為替レート)の動向を示したものであり、国際的な生産ネットワークの発展が急速に進んだ1990年代、2000年代においても、大きく変化していることがわかる。一般的なマクロ経済学の理論によれば、たとえば、円高(円安)になれば輸出が減少(増加)する方向に、輸入が増加(減少)する方向に動くと考えられる。しかし、昨今のように、複数国にまたがって国際分業体制が形成されている場合、部品・中間財が輸出入という形で活発に取引されるため、為替の変化への貿易の反応は、もはや単純なものではない。実際、製造業分野における日本の多国籍企業による為替変化への貿易調整を見てみると、為替が円高方向にふれると輸出だけでなく、輸入も減少する傾向にある。その理由の1つとして、輸出の減少に伴い、輸出する製品の製造に用いられる原材料や部品・中間財の海外からの調達も減少した部分もあると考えられる。

企業による為替への反応度の違いに着目してみると、輸出において、出資比率の高い海外子会社を多く保有する企業や企業内輸出比率の高い企業など、自らコントロールしやすいような海外オペレーションを多く有しているような企業の方が、為替への反応度が高い。また、輸出全体で見ると、企業規模と為替への反応度の大きさに関係は見られない。つまり、製造業分野で国際展開している場合、中小企業だからといって為替変化に対応できないというわけではなく、企業規模よりもむしろ企業活動のグローバル化の程度の方が、為替変化への対応力という観点からは重要だと示唆される。企業にとってよりグローバルな活動に参加しやすく、海外での活動を強化しやすいようなビジネス環境の改善に役立つ政策を実施することがいかに重要であるかを物語っている。

さらに、海外展開を積極的に行っている企業は、企業間取引よりも企業内取引の方を柔軟に調整して、為替への対応を行う傾向が強いという結果も得られている。単純な企業内取引から企業内・企業間取引を精緻に組み合わせた生産ネットワークの形成へとシフトし、国際分業を深化させていくことは、為替変化に対してある種のショック軽減作用があるとも言えよう。国境を越える取引が発生する限り、為替レートの変化の影響を受けることになるのは事実だが、企業がグローバルに企業内・企業間取引をうまく組み合わせて生産のネットワークを構築できれば、為替変化への対応力の強化に寄与しうる。関税・非関税措置の削減・撤廃をはじめとして、貿易・投資の自由化および円滑化を推進するような政策を通じて国際分業をより一層深化させていくことは、為替変化のショックへの対応という面から見ても、重要である。

図1:日本の為替レートの変化
図1:日本の為替レートの変化
データ出所:日本銀行ウェブサイト