ノンテクニカルサマリー

技術的ショックは労働時間を減少させるのか: JIP(Japan Industrial Productivity)データベースに基づく実証分析

執筆者 権 赫旭 (ファカルティフェロー)
高 準亨 (東京大学)
研究プロジェクト サービス産業生産性
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「サービス産業生産性」プロジェクト

生産性と労働投入量はどのような関係を持つだろうか。実物的景気循環(RBC)モデルでは、労働投入量が生産性上昇ショックに応じて増加すると予測する。その一方、正の技術的なショックの下での生産性と労働投入量の間の負の相関関係は、新ケインズモデルに一致している。したがって、重要な研究トピックは、どのモデルが生産性と労働投入量の関係の実証的証拠と一致しているかを調査することである。

本論文の主な目的は、日本において、マクロレベルおよび産業レベルの技術的なショックが労働投入量へ与える影響を実証的に調べることである。本論文では、1974年から2007年までのJIPデータベースの使用により、生産性と労働投入量の関係を実証的に分析することを試みる。本論文の既存文献への主な貢献は、全産業を集計したマクロおよび各産業レベルの両方の生産性と労働投入量の間の相関性を明らかにすることである。更に、製造業および非製造業部門の間の違いを明らかにする。

分析の結果は以下の通りである。まず、マクロレベルでは、正の技術的なショックに応じて労働投入量が増加することが明らかになった。また、特に、この現象は製造業および非製造業の両産業で同じように現われることが分かった。このような正の技術的なショックに対して労働が増加する効果はRBCモデルと一致する。他の先進国を分析した先行研究で負の相関関係が観察されることからすると、この結果は日本だけの独特の現象ともいえる。その他に、非技術的なショックが訪れたときは、生産性が減少することが分かった。

図:Impulse responses of TFP and hours worked
図:Impulse responses of TFP and hours worked

次に、産業レベルとしては、正の技術的なショックへの労働投入量の反応が、セクター間で異なることが分かった。製造業においては正の相関がより堅調であり、特に「金属製品」、「一般機械」および「精密機械」では、労働投入量の著しい増加を示した。一方、非製造業においては、「卸売業」、「小売業」、「金融・保険業」などの産業ではほぼ1の正の相関関係を示しており、全体としては正の相関が観察されるものの、多くの非製造業部門において短期的には労働投入量の減少が見られ、特に、「農林水産業」、「鉱業」、「不動産業」、「通信業」および「対個人サービス産業」で、正の技術的なショックに対して著しく負の労働投入量の反応が観察された。従って、多くの製造業部門における生産性と労働投入量の間の正の相関関係は、標準的なRBCモデルの予測と一致しているのに対して、非製造部門は、新ケインズモデルとより一致していることが示唆される。

さらに、我々は、技術的なショック以外のいわゆる「非技術的なショック」が起こったときに、なぜ生産性と労働投入量が負の相関関係になるかを調べた。我々は、非技術的なショックを、全産業に占めるある産業の割合が大きくなるような「産業構成変化要因」(たとえば消費者の産業ごとの消費する財のウェイトに対する好みの変化を反映する)と、他産業に影響を与えない「産業特殊要因」とに分解する。

我々の主要な結果は次のように要約される。第1に、産業構成変化要因に応じて、企業は短期的な生産性上昇に伴い、一般に雇用を増加させる。第2に、非技術的なショックが起こったときに現れる生産性と労働投入量の間の負の相関関係は、 産業特殊要因が原因である。

分析結果から得られる政策的インプリケーションは以下の通りである。まず、生産性上昇ショックと労働投入量の間の正の相関関係から政府は雇用創出と生産性上昇を同時に達成するために、生産性上昇の要因である研究開発投資やIT投資に対して積極的に補助金や租税減免を実施すべきである。次に、非技術的なショックが起きた際に、産業構成要因の変化によって生産性の上昇が発生するので、産業連関効果の強化や斜陽産業から成長産業への資源再配分が円滑に行われるように、労働市場や金融システムに対する規制緩和を行うべきである。