ノンテクニカルサマリー

卸売業における企業の生産性と輸出:日本企業の実証分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の創生と貿易・直接投資の研究」プロジェクト

問題意識

近年、卸売企業が国際貿易に果たす役割が重要であることを指摘する研究が国際的に出てきた。貿易における卸売業の重要性は、とりわけ日本では無視できない。1985年に日本の総合商社9社が、日本の輸出の45%を占めていたといわれる。また、生産性の低い企業の輸出、輸出が困難な国への輸出に関して、商社の役割は極めて重要であることが近年の研究から分かってきた。しかし、輸出を拡大するうえで、従来の政策は直接輸出を主に考えてきた。既存研究も直接輸出を研究対象としており、卸売業の日本企業の輸出については、既存研究が見当たらない。そこで、本研究は、卸売業における輸出の実態を日本の企業レベルデータを用いて、初めて解明しようと試みた。

主要な分析結果

本研究は、2001-2008年の期間の『企業活動基本調査』(経済産業省)からの企業レベルデータを用いた分析を行った。その結果、卸売業の輸出に関して、以下のことが分かった。

  1. 標本の中で、1412社の卸売業の企業が、輸出総額の22.9%を占めている。一方、4358社の製造業の企業が、輸出総額の74.8%を占めている(2008年)。
  2. 上位1%の輸出企業が、卸売業全体の輸出の64.5%を占めている(2008年)。
  3. 海外子会社を持つ輸出企業の方が、平均的に1社当たり輸出額、輸出比率ともに大きく、卸売業の輸出の88.7%占める(2008年)。また、海外子会社持つ輸出企業の方が、平均的に輸出の外延(輸出先数・輸出品目数)が大きい。
  4. 輸出企業は、非輸出企業よりも生産性が高く、海外子会社持つ輸出企業は、持たない輸出企業よりも生産性が高い傾向にある(下図)。

図:卸売業における輸出地位と生産性の累積分布関数(2008)
図:卸売業における輸出地位と生産性の累積分布関数(2008)
注:生産性が高いほど、累積分布関数が右側に位置する。

政策含意

本研究の分析からは、2つの政策含意が得られる。1つは、従来の直接輸出中心の輸出振興策から、卸売業の企業を活用した輸出振興策を進めていくことの重要性である。もう1つは、その際に、海外子会社を持ち、輸出活動が活発な卸売企業を活用することが重要だということである。