ノンテクニカルサマリー

地域化 vs. グローバル化

執筆者 平田 英明 (法政大学 / 日本経済研究センター)
アイハン・コーセ (国際通貨基金)
クリス・オトロック (ミズーリ大学・セントルイス連邦準備銀行)
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済成長を損なわない財政再建策の検討」プロジェクト

過去の四半世紀において、経済的な相互依存関係の強まり(いわゆる経済のグローバル化と地域化の深化)は世界経済の全体像を大きく変えてきている。国際的な貿易や資本移動は飛躍的に拡大している。また、貿易協定や域内共通通貨利用などに伴い、地域内での貿易取引も大きく拡大する傾向がみられる。

経済のグローバル化や地域化は、連動性を高めるのであろうか。波及経路がより太くなれば、1国の景気が他国に波及しやすいと考えるのが一般的だろう。しかし、現実はそれほど単純ではなく、連動性が高まる場合もあれば、低まる場合もある。どちらであるかは実証的に確かめる必要がある。

本稿では、景気変動をもたらす要因として世界共通(グローバル)、アジア・北米・ラテンアメリカなどの7つの地域固有、各国固有の各ファクターを仮定したモデルを推定した。たとえば、日本の景気変動は世界共通、アジア地域共通、日本経済固有の各ファクターなどで引き起こされる。各ファクターの影響を示す割合は合計で100%である(分散分解)。そのうえで、グローバルおよび地域固有ファクターに注目した。このファクターの影響を示す割合が大きくなっているとすれば、その国の景気変動は地域特有のショックに左右されやすくなっていることになる。

分析の結果、第1に、世界共通ファクターの影響力低下は世界各国で広範に観察された。第2に、地域固有ファクターの影響度が近年高まっていた。推定期間が2008年からの金融危機期を含もうと含むまいと、この傾向は変わらなかった。第3に、新興国を多く含むアジアとラテンアメリカを比較すると、新興国のデカップリングを主導してきたのはアジアであることがわかった。アジアの地域固有ファクターの景気変動に与える影響度合いは、1980年代半ば以降、平均で約35%で、10%未満だったそれ以前に比べ劇的に上昇した。逆に、ラテンアメリカではほとんど変化せず、15%前後で推移していた。両地域の結果の差につながっているのは、域内での生産ネットワーク構築などに伴う域内貿易や域内直接投資の規模の差である。アジアでは、全貿易に占める域内貿易の割合は過去50年で2 倍の約55%に拡大した。ラテンアメリカは約25%にとどまっている。各ファクター自体の動きも興味深い。まず、世界共通ファクターは2 度のオイルショック期に景気を押し下げる方向に大きく動いたが、今回の金融危機での動きはそれに比べて限定的だった。一方で、地域固有ファクターは、北米や欧州では、過去50年で最も景気を押し下げる方向への動きが大きかった。

なお、日本についてはアジア地域ファクターからの影響を非常に強く受けるようになってきていることがわかった。数値は幅をもって解釈する必要があるが、85年以降はそれ以前に比べると地域ファクターの影響を示す割合は5%から40%に上昇している。他方、グローバルファクターについては30%から10%に低下してきている。先進国の平均的な姿と比べると、日本はより地域ファクターから強い影響を受け、グローバルファクターからの影響は弱いということになる。また、両ファクターを合計してみると、35%から50%へと15%ポイント国外から受ける影響が高まっている。政策的含意としては、海外からの影響の受け方が変化してきていることを踏まえた経済政策が重要なことがわかる。

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