ノンテクニカルサマリー

資源、オランダ病と地域開発

執筆者 高塚 創 (香川大学)
曽 道智 (東北大学)
趙 来勲 (神戸大学)
研究プロジェクト グローバル化と災害リスク下で成長を持続する日本の経済空間構造とサプライチェーンに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバル化と災害リスク下で成長を持続する日本の経済空間構造とサプライチェーンに関する研究」プロジェクト

本研究は、地域が持つ自然資源と工業化の関係を、二地域・二部門の空間経済モデルを用いて理論的に検討したものである。1つの部門は資源産業であり、労働を投入し、収穫一定技術によって地域固有の資源財を生産する。もう1つの部門は工業であり、労働および資源財を投入し、収穫逓増技術によって企業ごとに差別化された工業財を生産する。二地域の人口規模は同一であり、生産される資源財(あるいはそれをもたらす自然資源)のみに違いがあるものとする。家計における(直接・非直接)支出シェアの高い(低い)資源財を生産している地域を「資源に富む(乏しい)地域」と呼ぶ。

資源財の輸送費が無視できる場合、以下のことが示された。工業財の輸送費が高ければ、資源に富む地域はそうでない地域よりも高い厚生を実現する。これは、資源に富む地域では所得(賃金)が高くなり、大きな市場を形成することで多くの企業を惹きつけるからである。しかし、工業財の輸送費が低下すると、企業は高い生産費用(賃金)を避けるために、資源に富む地域から他地域に移転し始め、いわゆる「オランダ病」が発生する。輸送費が低下し始めた当初は、企業シェアが他地域より低くなるに過ぎないが、輸送費が十分低くなると厚生においても他地域より低くなる。

一方、工業財の輸送費が無視できる場合、以下のことが示された。資源に富む地域の資源財を工業が多用するならば、資源に富む地域はそうでない地域よりも高い厚生を実現する。これは、資源に富む地域では所得(賃金)が高くなり、物価を考慮した実質所得においても高くなるからである。しかし、資源に富む地域の資源財が(消費支出が多くても)工業部門での投入が少ない場合には、他地域において企業シェアおよび賃金が高くなる。その結果、資源に富む地域の厚生が他地域よりも低くなる場合が発生する。

資源財および工業財がともに正の輸送費をとる場合については、数値シミュレーションによって検討を行った。その結果、資源に富む地域の資源財が(消費支出が多くても)工業での投入が少ない場合には、かなり広範囲の輸送費領域において、同地域の厚生が他地域よりも低くなりうることが分かった(図1を参照)。言い換えれば、このようなオランダ病は、資源財を工業部門への投入財として開発することで軽減できることが分かった。

豊かな自然資源に恵まれているにも関わらず、それが高い厚生に結びつかないのは当該地域にとって不幸である。こういった地域の厚生を高め、魅力ある地域にするためにはどうしたらいいだろうか。本研究の結果に基づいて述べるならば、豊かな自然資源にいっそう磨きをかけ、その有用性を高めることが求められる。その際、単に消費財としての資源財を開発・改善するだけでなく、工業部門への投入財としての資源財を開発・改善することが有効である。なぜなら、当該地域の資源財が工業部門で多用される場合、その地域に工業を呼び込むことができ、多様な財への購入アクセスを高めるからである。また、雇用の創出、地域の所得(賃金)水準の向上も期待できる。

2011年3月の東日本大震災は、津波および原発事故をも伴い、東北地域の人々に多大な被害を与えた。言うまでもなく、この地域は漁業資源をはじめ多くの自然資源に恵まれた地域である。この地域の迅速かつ持続可能な復興を実現するためにも、この豊かな自然資源を可能な限り取り戻し、いっそう磨きをかけていくことが求められるであろう。

図1:財の交易自由度、企業シェア、厚生の関係:数値シミュレーション結果
図1:財の交易自由度、企業シェア、厚生の関係:数値シミュレーション結果
注)交易自由度とは交易費用の逆数を表す指標であり、0(交易費用が無限大)から1(交易費用がゼロ)の間の値をとる。