ノンテクニカルサマリー

東日本大震災の影響と経済成長政策:企業アンケート調査から

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

問題意識

本稿は、3000社超の日本企業を対象に行ったアンケート調査の結果に基づき、東日本大震災の企業への影響と対応、今後の経済成長のための政策課題について概観する。大震災の影響については、特にサプライチェーン問題、計画停電・電力使用制限に焦点を当てている。今後の政策課題については、税・社会保障制度、政府財政の安定化をはじめとする中長期的な成長に関連する制度・政策に着目している。

サプライチェーン問題

東日本大震災の際にサプライチェーン問題から直接・間接の影響を受けた企業は約6割にのぼる。製造業、東北・関東地方、大企業で直接的影響を受けた企業の割合が多い。日本企業の過半数が国内での調達先の分散、海外からの調達拡大、部品等の在庫拡大等の対応を講じ始めている。産業や企業規模をコントロールした上で、もともとグローバル展開が進んでいる企業ほど海外からの調達拡大に積極的な傾向がある。他方、中小企業では特別な対策は講じないという企業が約4割にのぼる。理論的な立場から、調達先の分散、工場の複数化といったサプライチェーン問題への企業レベルでの対応と、規模の経済性の活用との間にはトレードオフが存在することが指摘されている。中小企業は調達のロットが小さいことなどから分散のコストが相対的に大きく、企業レベルでの取り組みを政策的にも支援していくことが望ましい。

電力供給制約

東日本大震災の後、約45%の企業が計画停電・電力使用制限等の影響を直接・間接に受けた。そして、復興と経済成長のための重要政策として、「電力の安定供給確保」を約47%の企業が挙げている。原子力発電所の稼働停止により2012年の夏も電力供給不足が懸念されているが、電力供給不足が生じた際の対応策として、電力料金引き上げによる需要抑制という価格メカニズムを用いた対応への企業の支持は、量的な供給制限に比べて少ない。一方、計画停電の適用除外となることへのWTP(willingness to pay)に関する調査結果は、電力需給逼迫時の価格引き上げが企業の電力需要を抑制する上でかなりの効果を持つ可能性を示唆している。

経済成長のための政策課題

一般論として企業経営に大きな影響を与えるものとしては、(1)社会保障費の企業負担(48.4%)、(2)法人税率(44.3%)、(3)為替レート(43.1%)、(4)電力・エネルギー価格(41.2%)、(5)政府・政策の安定性(32.9%)が挙げられている。

東日本大震災からの復興、日本経済の成長力を高めるために重要な政策としては、(1)「政府財政の安定化」(65.5%)、(2)「法人税率の引き下げ」(58.4%)、(3)「電力の安定供給確保」(46.5%)、(4)「社会保険料の企業負担抑制」(39.0%)、(5)「TPP協定への参加」(21.4%)の順に回答数が多かった(下図参照)。復興のための財政支出が増加する中、最近の欧州経済危機もあって、日本の財政の健全性への懸念が企業の間で非常に強いこと、また、社会保険料負担の増大が企業経営に対して大きな影響を及ぼしていることを示している。

図:大震災からの復興を進め、日本経済の成長力を高めるために重要な政策課題
図:大震災からの復興を進め、日本経済の成長力を高めるために重要な政策課題
(出典)経済産業研究所「企業経営と経済政策に関する調査」(2012年)より作成。