ノンテクニカルサマリー

発展途上国のキャッチダウン型イノベーションと日本企業の対応―中国の電動自転車と唐沢製作所

執筆者 丸川 知雄 (東京大学)
駒形 哲哉 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト アジアにおけるビジネス・人材戦略研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「アジアにおけるビジネス・人材戦略研究」プロジェクト

発展途上国の企業が、途上国の所得水準、需要、社会環境に適合的な製品やサービスを生み出すために、先進国企業とは異なる方向に技術を発展させる活動が近年注目されている。中国、インドなどの新興国市場が世界経済のなかで存在感を高めるなか、途上国企業によるそうした「キャッチダウン型イノベーション」を軽視していたら、新興国で存在感を失い、ひいては世界でも存在感を失うという危機感が先進国の多国籍企業のなかでも高まっている。これまで技術力で世界をリードしていると自負してきた日本企業だが、自分たちは世界の先端を進んでいると思っていたら、後を振り返ってみたら誰もあとをついてこず、「ガラパゴス化」しているのではないかという問題意識が日本でも生まれている。

中国、インドなどの新興国市場の存在感は今後もますます高まると予想されるので、そうした地域の所得水準、需要、社会環境に適合的な製品やサービスを生み出していくことが必要である。そのためには現地企業による「キャッチダウン型イノベーション」にも注意を払う必要がある。本稿ではその具体例として中国の電動自転車について分析している。日本の電動アシスト自転車に源流を持ちつつも、それよりも二桁大きな市場を形成した(図)。こうした途上国独自の産業は日本企業とは無縁な世界と思われがちだが、電動自転車向けのブレーキにおいて中国で40%以上のシェアを獲得している日本の中小企業がある。その企業の成功経験が示唆することは、第1に、日本が進んできたのとは異なるキャッチダウン型イノベーションの展開されている世界でも、日本企業の技術的蓄積が生きる場面が少なくないということ、第2に、そうした商機をつかむにはやはり経営の現地化が欠かせないということである。

図:電動自転車の躍進 (単位:万台)
図:電動自転車の躍進 (単位:万台)
(注)電動自転車の数字には輸出台数も含むが輸出台数は数十万台程度にすぎない。
(出所)Cycle Press, CHINA BICYCLE YEARBOOK各年版全国自行車工業信息中心他編『中国自行車』各号、自振協メールニュースにより作成。