ノンテクニカルサマリー

東日本大震災の被災地域への負の供給ショックと復興の経済波及効果に関する乗数分析-2地域間SAMを用いて-

執筆者 沖山 充 ((株)現代文化研究所)
徳永 澄憲 (筑波大学)
阿久根 優子 (麗澤大学)
研究プロジェクト 持続可能な地域づくり:新たな産業集積と機能の分担
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「持続可能な地域づくり:新たな産業集積と機能の分担」プロジェクト

2012年5月時点での鉱工業生産指数では、被災地域の生産水準は被災地域以外の地域にほぼキャッチアップしたように見える。しかし、下図が示すように、津波で浸水した地域での生産活動や、被災地域からの輸出が、震災前の水準まで回復するにはもう暫く時間がかかると考えられる。本稿では、被災地域(本稿の「被災地域」とは岩手県、宮城県、福島県、茨城県の4県を指す)の輸出の減少や、津波による農業・漁業被害がもたらした、被災地域やそれ以外の地域の生産活動や家計所得へのマイナスの影響を試算・推計している。

まず、本稿での試算・推計の結果について要点のみ紹介する。被災地域を中心にみられた震災後から半年間の大幅な輸出減が1年間続くと想定すると、被災地域の生産を6.5兆円減少させ、被災地域の世帯当たり家計所得も66.0万円減少させる。また、被災地域以外の地域において負の経済波及効果から被災地域以外の生産を46.4兆円減少させ、被災地域以外の世帯当たり家計所得も40.3万円減少させることになる。一方、津波による農業・漁業被害は、被災地域の生産活動を0.73%減少させ、年間換算した金額では0.5兆円に達する。そしてこうした被害は被災地域に止まらず、被災地域以外の生産活動にも年間換算した金額で2兆円の間接被害をもたらした。

これらの分析結果より次の政策的含意が得られる。第1に、被災地域での港湾施設等のインフラを早急に復旧するなど、輸出促進環境を整備する政策を通じて、輸出の回復・拡大による製造業部門の生産の増大を図り、第三次産業への波及効果から被災地域の家計所得の増加に繋がることが期待できる。第2に、被災地域での集積が高い水産加工製造業を復興させる政策を通じて、津波によって甚大な被害を被った水産業の復興を後押しし、被災地域とそれ以外の地域で合わせた上記の被害推計額(資本ストック毀損を含まず)のうちの漁業被害額である2.1兆円からの回復に繋げることができる。

また、本稿では、今後の被災地域の復興に向けてどのような財源(一般会計からの受入、租税、復興国債の3つのいずれかで手当てする)を用いて実施した場合、被災地域やそれ以外の地域への生産活動や家計所得などに対する経済波及効果を分析している。この分析結果は、復興国債の方が一般会計からの受入や租税の一部で充当するよりも、被災地域のみならず被災地域以外の地域に対してより効果的な財源であることを示唆している。したがって、平成24年度の復興庁予算である「東日本大震災復興特別会計」が、歳入の7割を復興公債金に依存していることに対して評価することができるものの、本稿の分析は、償還までの期間を十分に考慮していないという限界があり、こうした点に留意した上で、効果的な財源を何処に求めるかを考える必要がある。

図
注1)「生産額」は津波浸水地域に所在する鉱工業事業所の59事業所の生産額試算値を指し、この中には沿岸部の水産加工食料品製造業を含まない。
注2)「宮城県からの輸出額」の2012年3月と4月の伸び率は前々年同月期比となっている。
出所)経済産業省資料、および宮城県統計課「みやぎ経済月報」の主要経済指標から作成