ノンテクニカルサマリー

企業レベルデータによる電子商取引の効果分析

執筆者 安 相勲 (韓国開発研究院)
金 榮愨 (専修大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「サービス産業生産性向上に関する研究」プロジェクト

1990年代以降、日本経済は長期的な低迷を経験してきたが、同時期の米国経済はむしろ高い経済成長を享受していた。両経済のこのような差を生み出した要因として頻繁に取り上げられるのがITである。米国の経済成長にIT資本が大きく寄与したことは多くの先行研究によって確認されている。しかしながら、元橋(2005)、深尾・宮川(2007)などの研究によると、日本はIT資本の蓄積を進めてきたにもかかわらず、アメリカのようにITによる生産性の上昇を亨受できなかった。また、ミクロレベルのデータを用いて、ITのネットワークが生産性に与える効果を日米比較したAtrostic et.al.(2008)の研究は米国企業におけるネットワークの生産性に対する効果が、日本企業の2倍であることを示している。しかし、これらの研究は、日本経済と日本企業におけるIT効果がなぜ低いかについては説明していない。日本においてIT効果が観察されない原因としては、IT資本の蓄積が欧米より少ないことに加え、蓄積されたIT資本を十分に活用していない可能性が考えられる。従って、日本において、IT投資と生産性の間の結びつきを強化するためには、企業におけるIT資本の蓄積とともに、IT資本の活用が生産性に与える効果を明らかにすることが重要である。

このような問題意識に基づいて、本研究では、IT資本の活用手段の1つとして考えられる電子商取引が生産性レベルと生産性上昇に与える効果について分析した。

次の図は、OECDが作成しているKey ICT indicatorsのうち、購買と販売における電子商取引の導入率を国際比較したものである。これから確認できるように、日本はITの応用である電子商取引の導入率は決して高いほうではない。

図:インターネットを通じた販売と購買 (全産業、%)
図:インターネットを通じた販売と購買

このような背景のもとで、本研究は企業におけるIT資本の重要な活用の1つである「電子商取引」に注目して、どのような企業が電子商取引を実施しているか、またそれは企業の生産性にどのような影響を及ぼすかについて分析を行った。得られた主な結論は以下のとおりである。
1)用途別には、生産性が高い優良企業は、電子商取引を購買活動に活用しているが、相対的には、販売や企業内管理には活用していない。
2)産業別の結果をみると、製造業においては、優良企業は電子商取引を活用していない一方、卸売業のような非製造業においては、優良企業ほど積極的に電子商取引を活用している。
3)購買における電子商取引のみが、他の要因を全部コントロールしても、TFPのレベルと上昇率の双方について、統計的に有意な正の効果を与えている。

製造業の優良企業は電子商取引を活用しない一方、卸売業のような非製造業においては、優良企業が積極的に電子商取引を活用し、また、購買における電子商取引を活用するほど、TFPが上昇するという本稿の分析結果から、製造業においては購買活動に電子商取引を積極的に活用することに加え、非製造業においても販売活動や企業内管理にも電子商取引の活用を拡大することを通じて、生産性の上昇がもたらされる可能性があると推測できる。この推測が正しければ、電子商取引のようなIT技術の活用が日本経済の持続的成長の達成に寄与できることになる。そのためには、日本のサプライヤー・システムを、IT技術を活用してより効率的に再構築することや新しい技術の導入を補完するような組織改革、従業者への教育訓練に対する支援を強化する必要がある。