ノンテクニカルサマリー

日本におけるサードセクター組織の現状と課題―法人形態ごとの組織、ガバナンス、財政の比較―

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「日本におけるサードセクターの経営実態と公共サービス改革に関する調査研究」プロジェクト

特定非営利活動法人のみに注目するのではなく、より広く非営利法人全体、さらには協同組合、地縁組織、社会的企業などをも包括するサードセクターを「新しい公共」の担い手として位置付けるべきだという考え方から、まずはそこに含まれる諸組織の多様な実態を把握することを試みた。

その1つの結論として、サードセクター諸組織の組織的力量には、以下のように法人形態によってかなり大きな差異があることが確認できた(22点から-19点まで)。特に、特定非営利活動法人と公益社団法人の組織的力量の低さが注意を引く。

[高い] 学校法人(22)、社会福祉法人(17)、消費生活協同組合(16)、農業協同組合(16)、公益財団法人(13)、特例民法法人(財団)(11)
[中間] 一般財団法人(6)、一般社団法人(3)、特例民法法人(社団)(2)、その他の協同組合(-3)、公益社団法人(-5)、中小企業事業協同組合(-6)
[低い] 特定非営利活動法人(-13)、法人格なし(地縁)(-18)、法人格なし(地縁以外)(-19)

もう1つの結論として、収入構造を、「稼いだ収入(earned income)」と「もらった収入(voluntary income)」の割合と公的資金の割合によって分類した結果、表のような顕著なタイプの違いを確認することができた。

表:サードセクター組織の分類
表:サードセクター組織の分類

特に注目される発見は、「補助金から契約へ」と呼ばれる動向によって政府行政から「稼いだ収入」が急増しつつあるイギリスに比べてすら、日本の非営利法人は政府行政から「稼いだ収入」(バウチャー制度、事業委託、指定管理者制度など)の割合が顕著に高く、その結果、公的資金の割合も高くなっていることである。

特に、バウチャー制度(高齢者福祉、障害者福祉)において特定の法人形態以外の参入が禁止されていたり、事業委託契約や指定管理者制度において透明な競争を経ない随意契約が依然として多いことは、日本における非営利法人の自律性と経営力を高めるうえでの重大な障害となっていると考えられる。

それぞれの事業分野ごとに適切な事業規制を設けることは必要であるとしても、法人形態による参入規制や特定の団体の随意契約による優遇は廃止して他のサードセクター組織や民間企業との間での健全な競争を導入することは、効率的で質の高い公共サービスを実現するだけでなく、自律的なサードセクターを構築するうえでも不可欠の課題である。

こうした考察を前提にして、特定非営利活動法人だけでなく、最近急増している一般社団法人、一般財団法人(それらの非営利型)も含めた非営利法人全体、さらにはサードセクター全体を視野にいれた簡明な法人制度の整備、経営支援、活動基盤の整備、官民関係のルール化などの政策が体系的に展開されることが望まれることを指摘しておく。

最後に、今回初めて実施されたサードセクター諸組織の実態把握の調査が継続されることと、総務省によって実施されている平成24年経済センサス(活動調査)のデータをサードセクターの法人形態ごとに分析できるようにする措置がとられることを要望しておきたい。