ノンテクニカルサマリー

為替レートの変動がドイツの輸出に与える影響

執筆者 THORBECKE, Willem (上席研究員)
加藤 篤行 (早稲田大学)
研究プロジェクト East Asian Production Networks and Global Imbalances
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks and Global Imbalances」プロジェクト

ドイツの通貨価値は、経済力の劣るその他ユーロ圏諸国とリンクしているため低く抑えられている。このことはドイツの輸出にどのような影響を与えているのだろうか。

本稿で得られた結果によると、ドイツの単位労働コスト(ULC)でデフレートした為替レートとドイツの輸出の間には非常に明確な関係があることが示される。通貨価値が10%上昇すると輸出は6%減少する。また、消費財輸出は資本財輸出よりも為替レートの変動の影響を受けやすく、また他のユーロ圏諸国への輸出の方がユーロ圏外への輸出よりも為替レートの変動に影響されることを示す。

ユーロ圏諸国は単一通貨を使用しているため、ULCでデフレートした為替レートの変動は、ULCの変動によってのみ起こり得る。図1は2000年から2011年までのドイツとその他のユーロ圏諸国のULCを示す。この期間に、大半のユーロ圏諸国ではULCが20~30%上昇したが、ドイツの上昇率は3%を下回った。つまり、ULCでデフレートしたドイツの通貨価値は、欧州の貿易相手国と比較して相対的にかなり低下した。

また、ユーロ導入後、相対的なドイツの通貨価値が大幅に低下し、ドイツから特に欧州向けの資本財・消費財の輸出を増加させたことを示す。2000年から2010年の間、ドイツの域内輸出は資本財が61%、消費財が96%それぞれ増加した。ドイツの急激な輸出増加の結果、ドイツには大幅な貿易黒字が、その他ユーロ圏諸国には大幅な貿易赤字がもたらされた。

均衡を取り戻すには、フランス、イタリア、スペインなどの国の賃金・物価をドイツの賃金や物価に対し、相対的に低下させる必要がある。また、貿易赤字国における生産性をドイツの生産性に対して相対的に上昇させることが必要となる。本稿の実証結果は、このような大規模な調整が必要なことを示す。したがって、ユーロ圏の均衡を取り戻す過程は、長期にわたり、痛みを伴う可能性が高い。

Figure. 1:Unit Labor Costs in Selected Eurozone Countries
Figure. 1:Unit Labor Costs in Selected Eurozone Countries
Source: OECD