ノンテクニカルサマリー

各国の大学研究及び産学連携が日本企業による海外研究開発活動の立地に与える影響

執筆者 鈴木 真也 (文部科学省科学技術政策研究所)
レネ・ベルデルボス (ルーヴァン大学 / UNU-MERIT / マーストリヒト大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
深尾 京司 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 東アジア企業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア企業生産性」プロジェクト

さまざまな経済活動の国際化に伴い、日本企業が海外各国において研究開発活動を行うケースが増加している。なぜ企業が海外において研究開発活動を行うのかについては、主に2つの理由が考えられる。1つは企業の持つ優れた技術を海外市場向け製品に適用するために現地市場の近くで研究開発活動を行うため、もう1つは海外でしか手に入らない優れた技術にアクセスするためである。近年、とりわけ後者の重要性が高まっていると言われており、その重要な源泉のひとつが大学において行われている科学研究と考えられることから、外国企業による研究開発活動を引き付ける要因としての大学における研究が注目されている。

そこで、本稿においては、各国の大学における学術研究の水準や産学連携の強さが、日本企業による海外での研究開発活動の実施に及ぼす影響を検証した。特に、企業の研究開発活動は多岐に渡っており、大学研究から受ける影響も研究開発活動のタイプにより異なると考えられるため、基礎研究・応用研究・現地市場向け開発活動・世界市場向け開発活動などのさまざまなタイプの研究開発活動に対して、異なる影響が見られるかどうかに着目して分析を行った。分析においては、498社の日本企業による、24カ国における海外での研究開発活動を1996年の海外事業活動基本調査のデータを用いて捕捉(表1参照)すると同時に、科学論文に関する書誌情報データベースに基づいて各国の大学研究の水準および産学連携の強さを測定した。これらの変数を用いたロジット分析を通じて、各国における大学研究や産学連携が日本企業による当該国での各種研究開発活動に与える影響を分析した。

表1:各国における日本企業による各種研究開発活動の分布(1996年)
表1:各国における日本企業による各種研究開発活動の分布(1996年)

分析の結果、ある国の大学研究者による関連する科学分野における研究水準が高いほど、日本企業が当該国で研究開発活動を行う確率が上昇することが示された。また、その効果はハイテク産業においてのみ観察され、その他の産業においては有意な影響は観察されなかった。加えて、ある国における産学連携の強さは、日本企業による当該国での研究活動(とりわけ応用研究)の実施を増加させるが、開発活動の実施には影響しないことがわかった。

本稿の結果から得られる政策的含意としては次のようなものが考えられる。日本企業は、他国の企業に比べ海外で行う研究開発活動の比率が低いため、今後その比率を高めて海外でしかアクセスできない優れた技術をより効率的に取り入れるようになれば、日本企業の競争力の向上につながる可能性があると言われている。しかしながら、海外で得た技術を他の製品の開発に適用可能かは、その技術の性質に依存する。たとえば、現地市場向けの開発活動から得られる技術に比べ、応用研究や世界市場向け開発活動から得られる技術の方がより革新的かつ適用範囲が広く、日本本国における活動を含めた企業全体の研究開発活動に与える波及効果も高いものと思われる。本稿の分析結果から考えれば、そのような企業全体の研究開発活動を促進する効果の高いタイプの海外研究開発活動を増加させるためには、現地の大学による研究活動や産学連携の状況を考慮した政策を立案することが必要となろう。一方、外国企業が日本国内で行う研究開発活動を呼び込むための政策を立案する際にも、国内企業に対する経済的波及効果や産業イノベーションに多大な影響を与える研究活動や、世界市場に向けた開発活動を引き付けるためには、大学研究の拡充に加えて、産学連携の強化や公的研究機関の整備が有効であると考えられる。また、大学研究の水準を高める以外にも、たとえば大学の国際化を進めることにより、外国企業が日本の大学で行われている研究にアクセスしやすい状況を整備することで、外国企業による日本への研究開発投資が促進される可能性もある。