ノンテクニカルサマリー

国際貿易と賃金格差が集積と経済成長に与える影響

執筆者 田中 亨憲 (大阪大学)
山本 和博 (大阪大学)
研究プロジェクト 都市の成長と空間構造に関する理論と実証
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「都市の成長と空間構造に関する理論と実証」プロジェクト

グローバリゼーション(関税率の低下、Free Trade Agreement, Trans-Pacific Partnershipへの加入等)は、産業の地理的な分布や、経済成長率に大きな影響を与える。本論では、低賃金国、高賃金国の存在する2国、経済成長モデルを構築し、グローバリゼーションが産業集積と経済成長率に与える影響を分析した。

グローバリゼーションが進んでいない段階においては、グローバリゼーションは賃金の高い先進国への産業集積を促進し、経済成長率はそれによって上昇する。しかし、グローバリゼーションが高度に進んだ段階においては、それ以上のグローバリゼーションの進展は、賃金の低い国への産業の流出を誘発する。この過程において、経済成長率は先進国からの産業の流出によって、低下する段階がある。しかし、先進国からの産業の流出が進んで、低賃金国に産業集積が形成されると、今度は、新たな産業集積が経済成長のエンジンとなる。すなわち、グローバリゼーションの進展は、低賃金国への新たな産業集積の形成と、高い経済成長率をもたらすことになる。

経済成長率の上昇は、経済厚生の改善をもたらすため、グローバリゼーションは多くの場合、望ましい影響を持ちうる。しかし、産業の流出が発生する国においては、経済厚生の低下が発生する可能性があるため、世界全体としては望ましい政策(FTA、TPP加入等)の導入について、高賃金国、低賃金国の間でコンフリクトが発生する可能性を指摘している。

一般に、輸送費用が高く、グローバリゼーションが進展していない段階では、先進国に産業集積が形成され、グローバリゼーションが高度に進展した段階においては、先進国から低賃金国へと、産業の流出が発生する。従って、それぞれの段階において、グローバリゼーションやそれを進展させる政策が個々の国へ与える影響は異なるが、全体としては経済成長率を上昇させるため、グローバリゼーションの促進に向けた国際的なコーディネーションが行われる必要がある。

多くの場合において、グローバリゼーションの進展は経済成長を促進する。先進国から低賃金国への産業流出が発生する場合においてもグローバリゼーションは世界全体の成長率を上昇させる。それは、先進国にとっても長期的には便益をもたらす。すなわち、日本におけるグローバリゼーションの拡大は、アジア経済の成長率を向上させ、長期的には日本経済にも大きな果実をもたらすのである。従って、日本政府がFTA、TPPへの参加等で、政策的にグローバリゼーションを展開する事は、アジア経済、そして日本経済の今後の経済成長のために重要であると考えられる。

図:グローバリゼーションと経済成長
図:グローバリゼーションと経済成長