執筆者 | 伍 暁鷹 (一橋大学経済研究所) |
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研究プロジェクト | 東アジア産業生産性 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト
高い経済成長を続ける中国経済の成長要因の分析、特に産業別の生産性の解明は、学術的にも政策実務にとっても極めて重要な課題だが、これまで適切なデータが存在しなかった。こうした中、RIETIでは東アジア生産性研究の一環として中国産業別生産性(CIP)データベースを構築し、公開を開始した。
本論文は中国産業別生産性(CIP)データベースのマニュアルである。この作業は、将来中国経済全産業、戦後全期間(改革前後にわたる)における生産性研究の第一歩である。現段階の推計対象期間は改革開放後の1987年からリーマンショックの2008年までである。暫定結果を先に言えば、工業全体の労働生産性の成長率は4段階にわけられ、年平均6.6%である。産業別でみると、通信業の労働生産性の成長率は 年平均16.3%であり、最も速い。それに続くのは、運送設備(15.1%)である。興味深いのは、健康衛生サービス、政府および社会サービス業の生産性成長率はそれぞれ、11%、9.7%、11.7%である。これはマディソン(Maddison, 2006)が想像している余剰労働力を持つ場合、これらのサービス部門の労働生産性は上昇しないという点と明らかに異なっている。
また、労働の再配分効果の変化はそれぞれの政策効果を反映している。まず、改革開放が推し進められた1992-96年、そしてWTOに加盟した2001年以後の時期において、労働再配分効果はもっとも顕著である。前者は国有部門の市場化改革の成果を表している、後者は国際競争に応じて経済構造の変化によるものだと思われる。ただし、1997-2001年においては、アジア金融危機(1997-98)の影響を受けて、中国経済もデフレマクロ経済環境に巻き込まれたと考えられる。
注意する必要があるのは、上述の分析では労働時間の調整はまだ行われていない。残された課題として、次のステップに譲ることとする。