ノンテクニカルサマリー

資源の偏在と資本移動および租税競争

執筆者 小川 光 (名古屋大学)
大城 淳 (大阪大学)
佐藤 泰裕 (大阪大学)
研究プロジェクト 都市の成長と空間構造に関する理論と実証
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「都市の成長と空間構造に関する理論と実証」プロジェクト

近年の国際的な資本移動の活発化を受けて、資本市場統合およびそれに対する政府の政策の効果について、さまざまな研究が行われてきた。こうした流れの中で、国々の違いを明示的に考慮して、どのような国が資本市場統合から利益を得、資本市場統合に対してどのような国の政府がどのように行動する誘因を持つのか、そして、その各国厚生への影響はどのようなものかを明らかにすることの重要性が認識されるようになった。しかし、既存研究では、人口規模の違いなどのごく基本的な要素しか考慮されておらず、産業構造の違いなど、より入り組んだ要素を考慮した分析が待たれていた。

この論文では、資源の豊富な国と資源の乏しい国とを考慮し、資本市場統合およびそれに対する政府の政策の効果を分析した。資源の有無は、当然のように、産業構造の違いを生み出す。この違いの効果を分析するため、資源を直接利用して中間投入財を生産する部門と、最終財を生産する部門との両方を表現でき、かつ資本移動に対する政府の政策を考慮できるモデルを構築した。

構築したモデルを用いて、以下の3つのシナリオの下での状態を比較した。(1)資本移動が生じない場合、(2)資本移動は生じるが、政府は何も政策を実施しない場合、そして、(3)資本移動が生じ、政府はそれに対応するため資本投入に対して課税する場合(租税競争の場合)、である。

分析の結果、(1)と(2)との比較を通じて、資本市場統合は、資源の乏しい国から資源の豊かな国への資本移動を促し、(2)と(3)との比較により、資本移動に直面すると、資源の豊かな国の方が、資源の乏しい国に比べて資本課税を強化する誘因をもつことが分かった。

これらの結果の政策的な含意は次の図に集約できる。

図:資本移動および政府の介入による厚生への影響
図:資本移動および政府の介入による厚生への影響

この図は、両国の(1)~(3)の場合における総生産を表している。ここでは、国の厚生を総生産で測っている。まず、資本移動は、二国合わせた生産の効率を改善する。しかし、その恩恵は、資源の乏しい国に偏ってしまう。資本流入により、資源の豊かな国の生産は拡大するが、資本輸入への支払いを通じて、その利益が資本輸出元である資源の乏しい国に流出してしまうためである。その結果、資本移動は、資源の豊かな国の厚生を引き下げ、資源の乏しい国の厚生を引き上げることになる。これに対して、政府が資本課税を行う租税競争の場合は、資源の豊かな国が、資本流入圧力を利用することで資本を失うことなく資本に課税することができ、それにより、資本移動による生産効率改善の効果を奪って厚生を引き上げることができる。ただし、こうした課税により資本投入が影響を受けるため、生産の効率は(2)の場合に比べて劣ってしまうことに注意が必要である。

以上の結果は、資源の乏しい日本にとって、資本輸出がその資源の不在を埋め合わせてくれる可能性を示している。加えて、そうした資本輸出先の国に対して、資本課税に関する協調を働きかけることが重要であることも示唆している。さもなければ、資本課税により資本輸出の利益を奪われてしまうためである。従って、資本課税に関する協調を実現するための施策も重要になる。たとえば、資本輸出先の国が途上国であれば、インフラ整備の援助などを通じて資本輸出による利益を還元するなどの方法が考えられるであろう。