ノンテクニカルサマリー

銀行業における企業成長と効率性:効率性仮説の新しい検証方法

執筆者 本間 哲志 (富山大学)
筒井 義郎 (大阪大学)
内田 浩史 (神戸大学)
研究プロジェクト 効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会」プロジェクト

Demsetz (1973)は、効率的な企業は競争に勝って成長し、マーケットシェアを高めて高い利潤を得る、そして、このメカニズムを通じて市場は次第に集中度を増す、といういわゆる「効率性仮説」(Efficient Structure (ES) hypothesis)を提唱した。この仮説が正しければ、集中度の高い市場ほど効率的であり、独占禁止政策はかえって経済に問題を引き起こすことになる。市場の集中度が高ければ競争が緩やかであることは、集中度が高ければ企業は独占的価格付けを通じて非効率性を発生させる、といういわゆる「市場構造・行動・成果仮説」(structure-conduct-performance (SCP) hypothesis)からも示唆されるが、そのメカニズムは全く異なるものであり、SCP仮説が正しければ独占禁止政策は正当化される。

このように、ES仮説が成立しているかどうかを検証することは、独占禁止政策を考える上で非常に重要であるが、既存研究における同仮説のこれまでの検証には分析手法上さまざまな問題があった。本稿では、効率性と成長との関係を明示的に分析することで、こうした問題を持たない新たなES仮説の検証方法を提示した。

また、本稿の検証方法は、SCP仮説と密接な関係を持つ「平穏仮説」(quiet-life (QL) hypothesis)も検証可能である。この仮説は、集中度の高い市場では企業努力の現象、無駄な支出の増加などを通じて企業は費用最小化を行わず、非効率性が増大する、と考える。本稿では効率性がどのように決定されるのかも考慮することによって、ES仮説とQL仮説を同時に検証する。

本稿ではさらに、単に検証方法を提示するだけにとどまらず、その方法を用いて日本の銀行業におけるES仮説とQL仮説の妥当性を検証した。1974年から2005年の大銀行(都市銀行・長期信用銀行)26行のデータを用いて検証したところ、費用面での効率性の高い企業ほど貸出額や資産額が増加しており、ES仮説は支持された。しかし、市場の集中度が高まるほど費用効率性が悪化することも分かり、QL仮説もあわせて支持された。

両仮説の効果の量的な大きさを計算すると、ES仮説については、効率性指標が全銀行の分布の1標準偏差分改善すると、貸出が1.28倍に増える、という形で銀行が成長することが分かった(図表)。同様にQL仮説について計算すると、市場集中度がサンプル期間を通した変化の1標準偏差分高まると、効率性指標は0.05減少することが分かった。しかしこれは効率性指標の1標準偏差(0.15)に比べると小さな値である。そこで、量的な効果はES仮説の方が大きいことが分かった。

図表:ES仮説の検証結果:効率性が企業成長(貸出成長)に与える影響

本稿で得られた結果は、(1)企業が競争に打ち勝ち成長するためには費用面で効率的である必要があるが、(2)効率的な企業が成長した結果として市場の集中度が高まれば、逆に企業の効率性が悪化することを示しており、効率性と企業成長、市場構造に興味深い相互作用が働いていることが分かった。ただし、量的な効果は(1)の方が大きいという結果も得られていることから、独占禁止政策はかえって効率的な企業の成長を妨げるという形で経済に非効率性をもたらす可能性があることが示唆される。