ノンテクニカルサマリー

貿易と成長のイートン・コータム・モデル

執筆者 内藤 巧 (早稲田大学)
研究プロジェクト グローバル経済における技術に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバル経済における技術に関する経済分析」プロジェクト

「国々の技術の違いが貿易を生み出す」と主張する、国際貿易理論における最も基本的なモデルであるリカード・モデルが復活してきている。イートン・コータム(2002)は、ドーンブッシュ・フィッシャー・サミュエルソン(1977)の2国多数財リカード・モデルを任意数の国に拡張し、2国モデルでは扱えない自由貿易協定等の貿易政策が国々の貿易の外延(貿易されている品目の数あるいは割合)に与える影響を分析する枠組みを提供した。しかしながら、彼らの静学的なモデルでは、たとえば中国のように、貿易自由化が経済成長を促進し、それと共に輸出の外延が拡大するという動学的な現象を扱うことができない。この論文の目的は、イートン・コータム・モデルを動学化し、貿易自由化が時間を通じて国々の経済成長率や貿易の外延に与える影響を調べることである。

図

上の図はモデルの概略図を表している。第1国を例に取ると、最終財Yを生産する企業は、最も安く供給してくれる国から各中間財xを買う。各国がある中間財を第1国に供給する費用は確率的に決まると考える。確率分布を表す山のようなグラフが左に寄るほど、その費用は低くなりやすい。それらの山の位置関係によって、第1国が各国からある中間財を買う確率が決まる。実は、その確率が、第1国が各国から買う中間財品目の割合、つまり第1国の各国からの輸入の外延(これは各国の第1国への輸出の外延でもある)に一致する。このモデルのイートン・コータム・モデルとの違いは、貯蓄によって資本Kが増え、それが中間財の生産要素としての資本の価格を下げることによって、確率分布の山がシフトし、貿易の外延が時間を通じて変わっていく点である。

主要な結果および政策的含意は2つにまとめられる。第1に、任意の2国間の貿易費用の低下は、長期的に全ての国々の間で均等化される経済成長率を高める。たとえば、第1国が第2国から中間財を輸入する際の貿易費用が下がると、第1国の最終財企業は第2国から安く中間財を輸入できるようになるため、第1国の成長率が上がる。これは第1国の資本を相対的に大きくするので、第1国の資本の価格が下がる。すると、第1国以外の全ての国々にとって、第1国の財が割安に輸入できるようになるので、それらの国々の成長率も高まる。貿易自由化は、一方的・二国間・多国間を含めいかなる形であれ、世界的な成長を促進する。

第2に、貿易自由化は、長期的に自由化国の全ての輸出先への輸出品目の割合を増やす。たとえば、第1国が第2国から中間財を輸入する際の貿易費用が下がると、第1国は第2国からより多品目の財を輸入する。それだけでなく、上記の成長率の調整により第1国の資本の価格が下がり、第1国以外の全ての国々は第1国からより多品目の財を輸入する。輸入促進は、外延における輸出促進としても働く。