ノンテクニカルサマリー

中国太陽電池産業の圧縮された発展とサンテックの台頭

執筆者 丸川 知雄 (東京大学)
研究プロジェクト アジアにおけるビジネス・人材戦略研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プロジェクト (第三期:2011~2015年度)
「アジアにおけるビジネス・人材戦略研究」プロジェクト

太陽電池に対する世界の需要は2000年から2010年の間に毎年53%という驚異的な伸びを示してきた。日本の太陽電池メーカーは1970年代から世界を技術的にリードする位置にあり、この需要の伸びによって大いに潤うはずであったが、2010年に世界の太陽電池生産の半分を占めたのは、2002年以降にこの産業に参入したばかりの中国企業たちであった。なぜ中国の太陽電池産業がこれほど急速に伸びたのか、なぜ日本の太陽電池メーカーが急速に衰退したのかを探ることが本稿の課題である。

2010年以降、世界第1位の太陽電池メーカーの座に君臨しているサンテック(尚徳電力)の事例分析から、同社が短期間のうちに世界のトップになった要因を探ると、第1に技術選択、第2に資金調達が挙げられる。太陽電池を作るためにはいくつか有力な技術的選択肢がある(図)。

図:Conversion Efficiency and Production Cost of Various Types of PV Cells
図:Conversion Efficiency and Production Cost of Various Types of PV Cells

これらのなかで、サンテックを含め中国企業は設備を購入するだけで比較的容易に参入できる多結晶シリコンの技術を採用し、中国の労賃の低廉さと大規模生産によって生産コストを引き下げてきた(図のB)。一方、日本勢は光を電気に変換する効率が高い技術の開発を追求したり(図のA)、材料のシリコンの使用量を劇的に節約できる技術を追求する(図のC)など差別化路線をとってきた。だが、変換効率の高い太陽電池は、一軒家の屋根に設置するような小規模な太陽光発電所には適してはいるものの、広大な土地で大規模に建設される太陽光発電所ではむしろ変換効率は多少低くても安い太陽電池がより有利である。また、シリコンの使用量を節約する技術は、シリコン価格が暴落したため採用する意味がなくなった。日本企業は技術選択を誤ったために自らの市場を狭めてしまったのである。第2に欧州の太陽電池市場が急拡大する時に企業の資金力が重要であったが、中国企業は株をアメリカの証券取引所に上場することで大量の資金を一気に調達できたのに対し、大企業の一事業部として営まれている日本の太陽電池メーカーは社内での予算制約に直面して急激な拡大を行うことができなかった。

本研究から得られた日本政府の政策および日本企業の戦略に対する提言は次のとおりである。第1に、日本政府が1974年から実施している「サンシャイン計画」などの太陽電池の技術開発を推進する政策、および太陽電池の普及を助成する政策は太陽電池産業の育成に対して非常に効果的であった。日本の太陽電池メーカーの衰退の原因の1つは2005年に普及助成策が中断してしまったことにあるので、2012年に再生可能エネルギー買取制度が開始されることは日本の太陽電池メーカーにとって朗報であろう。

第2に、日本の太陽電池産業を伸ばすために保護主義に走ることは厳に慎まなければならない。一部には「設備認定」などの手段によって国内メーカーを優遇するべきだとの声があるが、こうした保護主義的措置は国内市場を縮小するだけでなく、国内メーカーの競争力を弱めるばかりであろう。一般家庭による太陽光発電所の設立数が非常に多いという日本市場の特殊な構造は、高効率の太陽電池を生み出す日本の太陽電池産業にとってもともと有利な構造であるため、市場を拡大する措置だけで十分国内メーカーを助けることになる。

第3に、日本メーカーは、家電など成熟市場に対するのと同じような戦略で太陽電池に臨んでおり、製品差別化を図り、「コモディティ化」を避けてきた。しかし、太陽電池は世界的に新興分野であり、生産コストが下がれば、原子力や火力など他のエネルギーに比べて選好される結果、市場は何倍にも拡大しうる。つまりコモディティ化(=価格下落)を進めることによって市場のプレイヤー全員が成長できる可能性がある。日本メーカーはこの点を十分に意識して企業戦略を再考すべきであろう。