執筆者 | 小西 葉子 (研究員)/文 世一 (京都大学)/西山 慶彦 (京都大学)/成 知恩 (リサーチアシスタント / 京都大学) |
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研究プロジェクト | 経済変動の需要要因と供給要因への分解:理論と実証分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済変動の需要要因と供給要因への分解:理論と実証分析」プロジェクト
輸送費が下がれば、国内外問わず地域間交易は活発になる。企業はより遠くで製品を販売するようになるし、消費者はより安価により多くの種類の財を入手可能になる。このような便益を享受するためには、道路、港湾、空港などのインフラ整備と効率的な交通システムの構築が不可欠である。また大型インフラ整備は、費用便益分析などにより政策評価され、そのフィードバックを受けながら、科学的根拠に基づいた政策立案が求められる分野である。そのためにまず必要になるのが、どのように輸送費用が決定されているのか、交易の利益を妨げるような地域格差はあるのか、あるとしたら是正するための要因はあるのかなどを知ることであるが、経済学の分野では現状では理論・実証研究ともに十分な研究がなされているとは言い難い。
本研究では、プロジェクトの第一歩として地域間貨物費用の決定要因に関する理論モデルとその実証分析を行った。国土交通省の全国貨物純流動調査(物流センサス)によると、重量ベースでみると、2005年のわが国の輸送の91.2%はトラック輸送であることより、トラックによる道路輸送を対象に分析を進める。
輸送費用は、貨物の重量、輸送距離、輸送にかかる時間、トラック運転手の賃金、トラックの利用料(レント)、トラックの燃費(性能)、高速利用や時間指定の有無などで構成される。また、発地と着地の地域情報を活かしたセミマクロ指標も加えた。たとえば、交易が頻繁に行われている地域間では帰りにも積荷を運ぶことができ、コスト削減につながると考える。またトラック運送業者の競争が過多な地域は輸送費が低くなるのが一般的である。推定には、全国貨物純流動調査(物流センサス)の個々の出荷情報と総合交通分析システム(NITAS)の経路最短距離、最短時間などを利用した。
表1は推定結果を利用して、各重量、各輸送距離の組合せにおける、1トン・1km当たりの輸送費の単価を計算したものである。緑の網掛けに注目すると、1トンの荷物を一般道路のみで50km運ぶと1km当たり284.2518円かかり、100km運ぶと単価は153.986円、200kmでは88.8531円......と安くなっていく。これは、どの重量でも観察され、距離が長くなるほどその単価が下がるのが観察された(長距離輸送の経済)。次に、黄色の網掛けを見ていくと、1トンのものを高速道路メインで50km運ぶと、その単価は431.6629円、2トンのものだと219.5611円、4トンでは、116.0308円......となり低下していく。これは全ての距離に関して観察され、重量が大きくなると単価が下がるのが観察された(規模の経済効果)。また高速道路は利用料がかかるため、一般道路利用よりも輸送単価は高くなるが、距離が長くなるほど両者の差は小さくなり、灰色で網掛けした超長距離または重量が大きなものについては逆転現象も観察された。高速道路費用のインパクトも距離に対して小さくなっていくことがわかった。
最後に、地域の輸送業の競合状況が費用に与える効果について観察する。推定で用いた地域の競争状態を表す変数である「人口1000人当たり運送業者数」の係数は約-5888円であった。現実では、最も競争度の高い地域は茨城県で0.67458、低い地域は長野県で0.26638であり、その差は0.4082 (0.67458-0.26638)となり、その差が運賃に与える影響は、0.4082*5888=2404円となる。運賃の平均値が2万6737円程度なので、平均運賃の約1割程度の地域差が生じていることがわかった。
以上より、新たに提案した理論モデルに基づく統計解析の結果、輸送費に対する距離や重量の関係がわかった。また地域によっては競争が不十分な場所があり、競争地域の運賃と比較すると平均で10%ほど割高である。このような地域に、競争を促進するような政策を進めることによってさらに運送料金が下がり社会厚生の上昇の余地があることを示した。