執筆者 | 小川 一夫 (大阪大学)/田中 孝憲 (立命館大学) |
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研究プロジェクト | 効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会」プロジェクト
アメリカにおけるサブプライムローンの不良債権化に端を発した「グローバル金融危機」は、輸出を中心としてわが国にも大きな打撃を与えた。このような危機が中小企業に具体的にどのような影響を与え、そしてそれに対してどのような対応策を取ったのか、本研究では経済産業研究所が2008年と2009年に実施した2回の「企業・金融機関との取引実態調査」に基づいて分析を行った。
中小企業が直面したショックの種類と取った対応策を明らかにすることは、大きなショックがわが国を襲った場合に、それに対してどのような政策対応を取ればよいのか、示唆を与えてくれる。
研究の主たる発見の1つは、中小企業が講じた対応策は企業と金融機関との関係に大きく依存していたことである。即ち、金融機関と密接な関係を構築してきた中小企業にとって、ショックの軽減を図る上で借入残高が最も大きい金融機関(メインバンク)や借入残高が2番目に大きい金融機関(セコンドバンク)が重要な役割を果たしたことである。これに対して金融機関との関係が希薄な場合には、対応策は広範に及んでいる(下表参照)。これは危機対応における企業と金融機関の関係(リレーションシップバンキング)の重要性を示している。企業と金融機関が長期にわたり安定的な関係を構築している場合には、金融機関が融資や借入れ条件の緩和等を通じて取引企業のショックの軽減に寄与するのである。ただ、そのためには金融機関の健全性が確保されていなければならない。今回の東日本大震災という未曾有のショックに対しても地域金融機関のバッファーとしての役割は極めて重要であるといえよう。そしてその役割が十分に担われるためには、資本増強によって金融機関の健全性を維持しなければならないのである。この意味からも金融機能強化法の改正による被災金融機関への公的資金注入は有効な措置である。
また、規模が小さく利益率の低い企業にとっては、政府系金融機関からの貸付や信用保証付き貸出が有効な手段であることも分かった。企業規模に応じたきめの細かな政策対応が重要なのである。
最後に仕入れ先からのショックに対して、代替的な取引先を有している場合には、ショックが大きく軽減されることが分かった。このことは今回の震災時に大きな問題となったサプライチェーンの分断による生産活動への影響を軽減するためには、サプライチェーンの複線化によるリスク分散が有効であることを示唆している。