執筆者 | THORBECKE, Willem (上席研究員) |
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研究プロジェクト | East Asian Production Networks and Global Imbalances |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks and Global Imbalances」プロジェクト
中国の貿易黒字はすべて加工貿易から生じている。加工輸出品は、東アジアのサプライチェーン諸国から来る部品を用いて生産される最終財である。中国の加工輸出品の付加価値の大部分は東アジア諸国によるものであり、したがって中国の加工輸出品に影響を及ぼすのは人民元ではなく、サプライチェーン諸国の為替レートであるとされる。本稿では、加工輸出品を加工組立(PAA)輸出品と輸入原材料加工(PWIM)輸出品の下位カテゴリーに大きく2分類し、こうした見方を検証した。
図1は、PAA輸出額の大部分がサプライチェーン諸国で生産されるPAA輸入品で占められていることを示す。図2は、PWIM輸出額とPWIM輸入額との差がかなり大きく、PWIM輸出品の付加価値の大半が中国で生産されていることを示す。また、PWIM輸入額が大きいため、PWIM輸出品の付加価値の大部分はサプライチェーン諸国においても生産されている。本稿では、東アジア通貨の為替レートは両タイプの輸出品に影響を及ぼすが、人民元はPWIM輸出品には多大な影響を与える一方、PAA輸出品にはさほど大きな影響を及ばさない、とのエビデンスを示した。
以上の結果は、サプライチェーン諸国がPAA輸出品の付加価値の大部分に寄与しており、中国とサプライチェーン諸国の双方がPWIM輸出品の付加価値にかなり寄与していることから、予想どおりといえる。今日、PWIM輸出額がPAA輸出額の6倍に上ることを踏まえると、上記調査結果は、人民元が加工輸出品全体(すなわちPWIM輸出品とPAA輸出品の合計)に影響を及ぼすことを示唆している。
このように、中国も含めた東アジア諸国の為替レートは影響力を持っているにもかかわらず、東アジアの政策立案者間で為替レート問題が議論されることはほとんどない。公式な交流が不十分な状態は、地域の生産ネットワーク内で民間部門が徹底的に統合されつつある現状と対照的である。東アジア諸国の政府当局者は為替レート問題に関する水面下の対話を始めるべきだ。外貨準備高の追加的な増加、米ドルに対する自国通貨の切り上げの是非、域内為替レート変動を制限する手段などが議題になり得る。経済学者や専門的な当局者による水面下での交流を通し、域内為替レート政策がいかに発展していくべきか、ビジョンが示されることが望まれる。