ノンテクニカルサマリー

外国人研修生受入れ特区の政策評価

執筆者 橋本 由紀 (東京大学大学院 / 日本学術振興会)
研究プロジェクト 少子高齢化と日本経済-経済成長・生産性・労働力・物価-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域I (第二期:2006~2010年度)
「少子高齢化と日本経済-経済成長・生産性・労働力・物価-」プロジェクト

本稿では、制度が始まった2002年から2008年度末までに認定された1000余の特区のうち、5つの「外国人研修生受入れ特区」(以下、研修生特区)に着目し、その1つである「愛媛県東予地域外国人研修生受入れ特区」が、受入事業所や地域の労働市場に及ぼした影響を評価する。具体的には、工業統計調査の個票を用いてパネルデータを作成し、特区に認定された事業所の特徴を、同一地域内で特区認定のない事業所や他地域の事業所との比較によって明らかにする。

分析の結果、特区認定を申請した事業所は、地域の中で、生産総額や1人当たり賃金額が平均以上の事業所が多いこと、特区認定以降に、非正規従業員比率を減少させていたことが分かった(図)。同時に、多くの特区認定事業所では、特区認定後に外国人研修生の受入数が増加しており、これらの事業所では、外国人研修生と日本人非正規従業員が代替関係にあった可能性がある。

外国人研修生と日本人非正規従業員の代替関係という結果を踏まえ、研修生特区は今後どうあるべきか。本稿の分析からは、比較的経営体力のある事業所が積極的に特区を利用していた上、特区認定事業所が地域の労働市場をゆがめるような効果は観察されなかった。たとえば、特区認定事業所では、特区認定後に従業員総数と正規従業員数がともに漸増しており、雇用の喪失や不安定化は起こっていない。もし、全国展開によって多くの事業所が特区枠を利用した結果、日本人労働者の雇用の減少や賃金水準の低下といった地域労働市場への影響が懸念されるのであれば、労働市場テストを課すことも一案である。一方、非正規従業員の業務が研修生に代替されることで、日本人従業員の技能伝承の停滞や将来の産業の空洞化を懸念する場合には、研修生の増加につながる特区の全国展開を性急に進める必要はないとも考える。全国展開の前に、多様な製造業事業所を含めた実験・検証が必要かもしれない。

図:非正規従業員比率の推移(特区内)
図:非正規従業員比率の推移(特区内)