ノンテクニカルサマリー

生産性動学と日本の経済成長:『法人企業統計調査』個票データによる実証分析

執筆者 乾 友彦 (内閣府経済社会総合研究所)
金 榮愨 (専修大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
深尾 京司 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

1982年から2007年までの『法人企業統計調査』における資本金2000万円以上の企業レベルのミクロデータを利用し、TFPレベルの長期的な動向とTFP格差の推移と決定要因を製造業と非製造業に分けて見た。また動学的な視点でTFP上昇の要因においても製造業と非製造業が異なるかをみるために、全数調査である資本金6億円以上の企業のみをパネル化したデータを用いたTFP上昇の分解分析も行った。

得られた主な分析結果は以下の通りである。(1)1982年から2007年までの全期間を通じて、製造業の平均TFPレベルは上昇傾向にあるが、非製造業のTFPレベルは低迷している(図参照)。(2)製造業と非製造業において産業内のTFP格差の拡大が観察された。非製造業のTFP格差が大きく、企業規模別に見ても非製造業において、大企業と中小企業間のTFP格差が広かった。製造業の産業内TFPレベルの格差の拡大はフロンティア企業の高い上昇率によるのに対し、非製造業では生産性の低い企業の低迷によるものであった。また、製造業においてはIT資本比率と同様に大卒雇用者比率と55歳以上の労働者の比率がTFP格差を拡大させる一方、非製造業では大卒雇用者比率と55歳以上の労働者の比率がTFP格差を縮小させる要因であった。(3)産業別の生産性動学分析の結果、製造業が非製造業と比べてTFP上昇率が高かった。(4)製造業におけるTFP上昇のほとんどは企業内部のTFP上昇によって説明されるが、非製造業では資源配分による寄与も見られた。

1982年から一貫して、非製造業のTFP上昇率が製造業に比べて非常に低く、時間が経ってもそれほど上昇しない理由として、生産性が低い非効率的な企業を市場から退出させるという選択メカニズムがうまく働いていないことが考えられる。また生産性格差が特に非製造業で大きいことは競争圧力が弱いために、企業におけるIT投資、無形資産蓄積の努力を高めようとするインセンティブメカニズムが働かないことにあると考えられる。

人口減少と高齢化が今後更に深刻となる日本にとって、成長を持続するために日本経済に占める比重が7割を超える非製造業における生産性上昇は大切な意味を持つことは言うまでもない。日本の非製造業の生産性を上昇させるためには、規制緩和、対内直接投資促進やEPA(経済連携協定)による内外からの競争圧力を高めて、市場の選択メカニズムとインセンティブメカニズムを回復させることが急務である。

図:製造業・非製造業の平均TFPレベル推移
図:製造業・非製造業の平均TFPレベル推移
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