ノンテクニカルサマリー

英国におけるWLB~国・企業の取組の現状と課題、日本への示唆~

執筆者 矢島 洋子 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

2000年からワーク・ライフ・バランス施策を推進してきた英国と、2007年から取組を推進してきた日本における、2010年時点の(通常フルタイムで働いている)正社員の働き方のパターンを下図に示した。日本の場合は、男女ともに「通常のフルタイム」が9割以上を占め、子どものいる女性のみ、フレックスタイムや短時間勤務で働く人が合わせて15%程度いる状況である。一方、英国では、日本と比較すると「通常のフルタイム」以外の働き方の割合が低く、特に子どもを持つ女性では、短時間勤務を中心に約4割の人が柔軟な働き方を選択している。

図:日本と英国の男女の働き方(複数回答)
図:日本と英国の男女の働き方
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柔軟な働き方の選択肢の中でも、男女の家庭内の固定的な役割分担を背景として女性の利用割合の高い「短時間勤務」という働き方に着目し、日英の労働者アンケートを定量的に分析した。結果、管理職からみて運用が困難とみなされる短時間勤務を「容易」かつ「生産性にプラスの影響」が出るように運営されている職場には下記のような特徴があった。

  • 業務が多忙すぎず、他部署等との折衝の必要性が低く、労働時間が長すぎないこと
  • 職場の同僚がノウハウを共有し代替可能であり、性別にかかわりなく能力発揮や休暇取得できる
  • 短時間勤務制度以外にもフレックスタイム制度などフルタイムでの多様な働き方の選択肢がある
  • 会社がWLBに積極的に取り組んでいる(と認識している)
  • コミュニケーションや部下の育成に熱心で、公正な上司がいる(生産性にプラス)

柔軟な働き方が日本よりも多く活用されている英国では、短時間勤務制度やフレックスタイム制度を実際に利用している人が職場にいることも、職場運営の「容易さ」や「生産性」にプラスの影響を与えていた。日本では、短時間勤務が実際に利用されていることは有意な影響を与えていない。そればかりか、2010年の改正育児・介護休業法施行以来の短時間勤務制度利用者の拡大にともない、企業の人事担当者や管理職からは、運用の困難さや短時間勤務者のキャリア意識に対する不安・不満の声が聞かれる。いまだ、ほとんどの正社員が「通常のフルタイム勤務」で働くことを前提としている日本の職場で柔軟な働き方の1つである短時間勤務を受け入れるためには、データ分析の結果にみられたような職場環境づくりを進めることが不可欠である。英国の先進的企業からは、柔軟な働き方が普及する過程において、職場マネジメントや人事管理の文化に大きな変革が起こったことが指摘されている。

「短時間勤務者に問題あり」と感じられた場合、企業の人事担当者や管理職は、短時間勤務制度や制度利用者を問題視する前に、職場全体の働き方や上司のマネジメントスタイルを「柔軟な働き方の受け入れが可能か」という視点から見直してみることが必要であろう。