ノンテクニカルサマリー

オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会―

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本研究は、ワーク・ライフ・バランス(WLB)に関するオランダの特徴をとらえ、日本への示唆を得ることを目的としている。

はじめに、WLBに関連するいくつかの指標を、日本およびそれぞれに異なる特徴をもつ先進諸国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)と比較しながら、オランダの特徴を概観した。そして、オランダがWLB社会と評価できる理由を論じ、そうした社会を成立させている条件を、パートタイム労働、仕事と育児の両立支援、テレワークについて検討した。また、2010年9月に実施した、オランダの民間企業4社へのヒアリング調査から、オランダ企業におけるWLBの取り組みと人々の働き方の実態について考察した。本研究から得られた主な結論は、次のとおりである。

図1のように、社会が一定量の労働力を活用しようとするとき、限られた人に長時間働いてもらう「分業型」と、多くの人にさほど長くない時間働いてもらう「参加型」という、大きく2つのアプローチがある。「参加型」の社会では、「分業型」の社会に比べて、仕事と仕事以外の活動を同時にこなす人が多く、ワーク・ライフ・バランスの実現度も高いと考えられる。労働時間や就業率に関する指標をみると、オランダでは、1人当たりの労働時間が短く、幼児をもつ母親も含めて、男女ともに就業率が高い「参加型」の社会となっている。そして、経済社会パフォーマンスも悪くない。

図1:「分業型」と「参加型」の社会
図1:「分業型」と「参加型」の社会

オランダを「参加型」社会として成り立たせるうえで重要な役割を果たしているのが、パートタイム労働である。オランダでは、パートタイム労働者の割合が先進国の中でも突出して高く、パートタイム労働者とフルタイム労働者の均等待遇が法的に整備されているだけでなく実際にも確保されており、パートタイム労働はさまざまな職種や業種に広がっている。そして、2000年の労働時間調整法により、時間当たり賃金を維持したままでフルタイムからパートタイムへ、あるいはパートタイムからフルタイムへと転換することもできるようになっており、労働時間を選択する自由度が極めて高い。

人々は、子育て期に労働時間を短縮したり、子どもの成長に合わせて労働時間を延長したりすることができる。さらに、労働時間の変更には、その理由を問われず、利用目的の制限はないため、単身者や子育てを終えた男女も活用している。このように、オランダでは、一時点でみた場合、長時間労働者が少なく、仕事と出産・育児の両立が可能だということに加え、ライフ・ステージに応じた働き方を調整しやすく、生涯においてWLBがとりやすい社会を形成している。

オランダは、最近では、スウェーデンのような、早くから仕事と育児の両立支援に取り組んできた国々に並ぶほど、女性の就業率が高くなっている。しかし、スウェーデンとオランダは、女性の就業率の高さでは現在同じグループに属しているのであるが、両者のアプローチには、かなりの違いが見られる。

スウェーデンでは、パートタイム労働の割合は高くなく、特に女性では減少傾向にある。男女ともにフルタイムで継続して就業することを原則としながら、子育て期には、寛大な所得保障をともなう各種制度を活用して、WLBを達成できるようになっている。

これに対して、オランダでは、男女の働き方に違いがあってもよいという考え方が一般に広く認められており、そうした考え方に基づいて制度が設計されている。ただし、このことは職場において男女を異なる取り扱いをするという意味ではなく、個人の希望を尊重しようとするものである。WLBの実現については、労働者がライフ・ステージの変化に応じて、自ら労働時間を選択する自由度を高め、パートタイム労働も1つの標準的働き方とすることで、取り組んでいる。オランダでは、スウェーデン(や他のヨーロッパの主要国)に比べて育児休業中の所得保障や保育サービスなどの公的支出も少ない。

最近のオランダでは、労働時間の柔軟性に加え、テレワークの推進などにより就業場所の柔軟性を高めることで、これまで以上に柔軟な働き方を実現しようとしている。この背景には、交通混雑が深刻化していること、オフィス費用が高いといった要因があるが、加えて、オランダがパートタイム社会であることもまた重要な要因となっている。