ノンテクニカルサマリー

プロダクト・イノベーションと経済成長 Part II:需要創出における中間投入の役割

執筆者 吉川 洋 (研究主幹)
安藤 浩一 (日本政策投資銀行設備投資研究所)
宮川 修子 (RIETIリサーチアシスタント)
研究プロジェクト 少子高齢化と日本経済-経済成長・生産性・労働力・物価-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術進歩については全要素生産性(TFP)の研究が国際的になされているが、それだけでは経済成長を牽引するプロダクト・イノベーションの役割を十分にとらえることはできない。たとえば、Amazonに代表される書籍のネット販売はIT無くては不可能である。ITにより書籍販売の生産性(TFP)は上昇したが、こうしたネット販売により書籍全体の販売数は増大しただろうか。既存の本屋を駆逐したにすぎない。つまりネット販売の登場は、書籍全体に対する需要は不変という需要制約下におけるプロセス・イノベーションにほかならない。

もう1つ例を挙げると、近年、中国が成長し上海を中心に新しい富裕層が誕生した結果、海外に流出していた中国の古美術が母国へ戻り始めた。この大きなビジネス・チャンスを生かしているのは欧米の古美術商である。こうした欧米古美術商の売上(付加価値)の急増を成長会計で分析しTFPを計測したら、どのような結果が得られるだろうか。ここから、高成長は決してIT投資や組織の改変からは生まれないということがわかる。高成長の源泉は、需要が急伸する「新しい市場の発見」にある。シュンペーターがイノベーションの1つに挙げた「新しい市場の発見」は、新しいS字カーブの創出、すなわちプロダクト・イノベーションにほかならない。

プロダクト・イノベーションに牽引される需要の成長を理解するためには、TFP向上の背後で起きている需要の動態に注目する必要がある。各々の財・サービスの成長が重要であり、販売額の全体が成長に寄与する。したがって、中間投入の産業でも影響を受け需要が増加する。製造業は生産プロセスの分業や部品の多さを反映して、各プロダクトの最終需要と付加価値分の違いが大きい(表1)。新たなプロダクトの創出については、「三種の神器」のような耐久消費財がイメージしやすいが、最終需要の増加であれば消費財に限らず投資財でも構わない。外需であれば部品等の中間投入も寄与する。太陽光発電のケースでは、中間投入での技術革新が投資財の需要成長を生み出し、関連産業への波及があり、さらに関連産業での技術革新につながっている。スマートフォンのケースでは、中間投入で技術を体化した重要部品が新製品を生み出す際に重要な役割を果たし、その新製品が新たなサービス需要につながっている。

企業の製品開発の姿勢としては、技術的な基礎力を培うだけでなく、どのような製品が受け入れられるかという点を意識して開発を進めることが重要である。単なるコスト削減ではなく、新しい価値を提供するような新製品を生み出すことが、企業収益の改善にも直結し、経済全体の成長にもつながる。生産を担う企業は成長著しい新製品を生み出すことにチャレンジすることが必要であり、行政においてはそういった企業に対して、たとえば『技術戦略マップ』を活用して方向性を与えるなど、新市場の創出を支援する政策を行うことが有益である。

表1:最終需要と付加価値の金額対比
表1:最終需要と付加価値の金額対比
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