ノンテクニカルサマリー

日本の労働市場における男女格差と企業業績

執筆者 Jordan SIEGEL (Harvard Business School)/児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「サービス産業生産性向上に関する研究」プロジェクト

日本は、労働参加率や賃金等の男女間格差が大きい国ではあるが、その格差が欧米各国に比べて突出して大きいわけではない。また、日本の女性活用状況は目に見えて進捗しているとはいえないが、一部、大企業では10年前に比べれば進んできているといえる。

本稿では、製造業とサービス業を比較することにより、女性の経営参画が企業業績に及ぼす影響について検討した。その結果、2000年代の日本において、(1)製造企業では、女性役員が増えること、女性役員がいること、女性課長がいることは、企業業績を高める、(2)サービス業ではその効果が見られない、(3)北米に本社を持つ多国籍企業の日本法人では女性管理職を雇うことによる企業業績への効果が高いことが分かった。女性が利益を高める要因としては、女性の経営参画によって「生産性」が上昇することと、差別のために女性の賃金が抑えられその結果企業が利益を得ることの2つが考えられる。本稿では、企業利益の一部が人件費節約による効果であり、Beckerの言うところの「差別嗜好」を持たない企業は、管理職に女性を採用し高収益を上げていることを示した。

この結果は、差別が残る市場では、女性管理職を活用することによって得られる利得があることを意味している。製造業では女性管理職活用は進んでいないが、サービス業ではかなり進んでいる。また、製造業では女性管理職を活用することによって企業業績には正の影響があるが、一方、サービス業企業では、女性管理職活用と企業業績はほとんど相関がないか、又は負の相関があった(下図参照)。この差は、製造業の方がサービス業に比べると、女性活用に保守的であることで説明できるといえよう。Siegel(2011)によると、韓国においても、多国籍企業が女性管理職を積極的に活用することで利益を改善させている。これも、女性活用に保守的であると言われている韓国では、多国籍企業が女性を活用することによって得られる追加的な利得がまだ残っているためであると考えることもできる。

日本において、「女性を活用すると企業業績が上がる」ことを喧伝する意向を持つ者が多い。しかし、女性が活用されている企業で業績が高い、あるいは、女性を活用することによって業績が上がるという事実は、未だ日本社会が女性の活用に保守的であることの裏返しである。近い将来には、女性活用(指標)が企業業績と何の相関もない、という時代が日本にもやってくることを期待したい。

図:女性役員がROAに与える影響
図:女性役員がROAに与える影響