執筆者 | 蓮見 亮 (日本経済研究センター)/平田 英明 (法政大学)/小野 有人 (みずほ総合研究所) |
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研究プロジェクト | 効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会」プロジェクト
スコアリング貸出はその名のとおり、借り手である中小企業の財務情報や企業・経営者の属性などをもとにその信用力をスコア(点数)化し、融資判断に用いる貸出技術のことである。日本では、金融庁が2003年に発表した「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」にて、スコアリングモデルの活用を推奨したこともあり、2000年代前半以降、大手銀行や地域金融機関が積極的に取り組みはじめた。しかし、スコアリング貸出の損失が予想以上に大きかったこと等を背景に、近年、取扱いを停止したり消極化したりする動きもみられる。本論文では、スコアリング貸出を行った金融機関の属性の違い(リレーションシップ銀行かトランザクション銀行か)に焦点をあてて、スコアリング貸出が企業の事後パフォーマンスや企業と銀行とのリレーションシップに及ぼす影響を検証する。
銀行がスコアリング貸出を行う動機としては、2つの可能性が考えられる。第1は、算出されたスコアを与信判断に際してほぼ自動的に活用することで、貸出一件あたりの審査コストや審査時間を縮減できることである。第2は、スコアを与信判断のための参考情報の1つとして裁量的に活用し、審査の質・精度を高めることである。こうしたスコアリング貸出の利用動機は、同貸出を実施したのが、ある企業にとって融資残高が最も多いリレーションシップ銀行(relationship lenders)なのか、それとも融資残高が2位以下のトランザクション銀行(transactional lenders)なのかによって異なると考えられる。一般に前者はいわゆるメインバンクに相当し、当該企業のソフト情報を一定程度把握していると考えられる。それにもかかわらずスコアリング貸出を使うのは、融資担当者の主観的判断による誤りを未然に防いだり、当該企業と他の企業とを比較考量することで審査の客観性を担保したりすることが目的と考えられる。一方、企業のソフト情報を十分に持っていないトランザクション銀行にとっては、コスト削減がスコアリング貸出の主目的と考えられる。
企業と金融機関の関係を特定したミクロ・データを用いた実証分析の結果、上記の推論を支持する結果が得られた。第1に、企業パフォーマンスを表すデフォルト確率は、スコアリング貸出の貸し手がトランザクション銀行の場合、事後的に上昇(悪化)することがわかった。一方、貸し手がリレーションシップ銀行の場合、スコアリング貸出を受けた中小企業のデフォルト確率は、逆に低下する傾向がみられた。また、最近のグローバル金融危機の下でのリレーションシップ銀行の貸出態度の変化に着目すると、貸出態度の悪化幅は、トランザクション銀行からスコアリング貸出を受けていた企業の方が、リレーションシップ銀行からスコアリング貸出を受けていた企業よりも大きい。図表は、これらの点を単純な記述統計(平均値)から確認したものだが、デフォルト確率や貸出態度に影響する他の要因をコントロールした推定を行っても、概ね同様の結果がえられた。
本論文の実証結果は、トランザクション銀行によるスコアリング貸出が、リレーションシップ銀行が取引先企業をモニタリングするインセンティブ(誘因)や、企業との緊密な関係性の維持に対して悪影響を及ぼしている一方、リレーションシップ銀行からスコアリング貸出を受けていた企業については、こうした悪影響がなかったことを示している。金融庁は、2007年以降、スコアリング貸出を推奨することを止めているが、同じ金融技術を活用する場合であっても、金融機関と企業との関係次第で、事後的なパフォーマンスには大きな差が生じている。地域密着型金融の推進に当たっては、特定のビジネスモデルを各金融機関に一律に推奨・非推奨するのではなく、「規模や特性等を踏まえた自主性・創造性を発揮した取組みを深化・定着させていくような動機付け、環境整備を図っていく」(「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(II -4-4「地域密着型金融の推進における監督手法・対応」(3))」より引用)ことが重要だと思われる。