ノンテクニカルサマリー

内部銀行プレミアムの推定

執筆者 根本 忠宣 (中央大学)/小倉 義明 (立命館大学)/渡部 和孝 (慶応義塾大学)
研究プロジェクト 効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「効率的な企業金融・企業間ネットワークのあり方を考える研究会」プロジェクト

研究の目的

リレーションシップバンキングは、すでに特定の金融機関との関係を構築した既存企業のみならず、新規参入企業向けの資金供給にも寄与しうることが既存の経済理論により予見されている。メインバンクになれば、(1)他行が得られない情報を入手することができることから融資競争において優位に立てるほか、その情報を用いて、他行には真似できない、(2)的確な資金供給判断(暗黙の流動性保険)、(3)経営財務助言の提供、などのサービス差別化を効果的に行うことが可能となる。この結果、メインバンクは単純な金利競争を回避しつつ、一定の利鞘を確保することが可能となる。このように利益を生むメインバンクとしての地位を獲得するために、潜在的顧客企業との関係をライバルに先駆けて構築することが有効であるとすれば、上記(1)‐(3)を特徴とするリレーションシップバンキングを提供する能力と意思を持つ金融機関は、新規参入企業への融資を積極的に行うはずである、というのが理論の示すところである。

本研究では、この理論の前提となる、メインバンクの超過利潤(内部銀行プレミアム)を独自の方法で統計的に推定し、その源泉が上記(1)‐(3)のいずれであるかを統計的に明らかにした。さらに、金融機関規模や地域融資市場の競争度が、超過利潤にどのように影響するかを調べた。

分析結果の概要

経済産業研究所が2008年2月に実施した『企業・金融機関との取引実態調査』の個票データから得られる短期融資金利を用いて推定したところ、内部銀行プレミアムは平均0.3%-0.5%程度で、統計的に有意に正であるとの結果を得た。短期融資金利の標本中央値が1.9%程度であることから、この値は経済的に相当なインパクトのある数字である。なお、上記(2)のような流動性保険を提供されていると企業側が認識している場合に、この値は大きく、統計的優位性も増すことが明らかとなった。このことは流動性保険の提供が内部銀行プレミアムの主要な源泉となっていることを示唆している。さらに、融資競争の厳しい大都市圏に所在する比較的規模の小さい金融機関(地方銀行、信用金庫など)がメインバンクである場合にプレミアムが高くなることも明らかとなった(下表)。

表:銀行規模と融資市場の集中度による内部銀行プレミアムの差
表:銀行規模と融資市場の集中度による内部銀行プレミアムの差

結果の含意

これらの結果が示唆する政策的含意は以下のとおり。
(1) メインバンクであることは実際に金融機関に利潤をもたらしている。
(2) そのような超過利潤の源泉は、メインバンクの暗黙の流動性保険の提供によるサービス差別化であることから、メインバンクが一方的に利潤を得ているわけではなく、中小企業側もリレーションシップバンキングの恩恵を受けている。
(3) 融資競争の厳しい場合に、あるいはメインバンクが比較的小規模である場合に、内部銀行プレミアムが大きいとの推定結果は、小規模金融機関がリレーションシップバンキングによるサービス差別化を積極的に行うことで厳しい融資競争に対応してきたことを示唆している。