執筆者 | 小塩 隆士 (一橋大学経済研究所) |
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研究プロジェクト | 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
基盤政策研究領域I (第二期:2006~2010年度)
「社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学」プロジェクト
本稿では、「くらしと健康の調査」(JSTAR)の個票データ――サンプル・サイズは3063人(男性1565人、女性1498人)――に基づき、高齢者の生活満足度に対する家族・社会要因の重要性が男女間でどのように異なるかを分析した。その結果、次のようなことが分かった。
- 所得や学歴など様々な社会経済要因や健康、その他の要因の影響を除くと、生活満足度に対する家族・社会要因の重要性は総じて男性より女性のほうが強い。
- 男性の生活満足度は女性のそれより配偶者の離死別の影響を受けるが、それ以外の家族要因、なかでも配偶者の親との関係は、男性より女性の生活満足度を左右する。
- 友人や近所づきあい、他人への信頼感等の社会要因は、とりわけ女性の場合、生活満足度にとって家族要因に劣らないほど重要である。
こうした結果は、高齢者の生活満足度に関する先行研究と総じて整合的だが、それぞれの要因の相対的な重要性を男女別に比較した点に本稿の特徴がある。配偶者と別れても女性は男性より図太く(?)生きていけること、嫁と姑の間の敵対関係は無視できないこと、女性は近所づきあいや友人との関係で男性より心豊かな生活を送れること、など常識的にも納得しやすい傾向が国際的に比較可能な調査でも確認できたことは、それ自体として興味深い。
日本社会は今後、高齢化が急速に進むだけでなく、生涯未婚率の高まり、親の介護への関与など、高齢者の家族形態は大きく変化する。そうした中で人々の主観的厚生を引き下げないためには、高齢者に対する地域社会の関わり方など、政策的にも検討すべき点があることが本稿の分析結果から示唆される。
表:生活満足度における家族・社会要因の重要性の比較