執筆者 |
細野 薫 (学習院大学) 滝澤 美帆 (東洋大学) 鶴 光太郎 (上席研究員) |
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研究プロジェクト | 組織と制度の経済分析:企業パフォーマンス・成長を高めるための組織・制度デザインのあり方 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「組織と制度の経済分析」プロジェクト
問題意識
2008年9月のリーマン破たんに端を発した海外発の世界金融危機は日本企業にも大きなマイナスの影響を与えた。しかし、個別企業をみると、影響の受け方は必ずしも一様ではなく企業の特徴によって異なっていたと予想される。本稿では、どのような日本企業が今回の危機の影響を受けやすかったのか、個別企業の危機直後の株価に着目し、危機の国際的波及効果について分析を行った。
分析結果のポイント
リーマン破たん(2008/9/16)から不良資産救済プログラム(TARP)が公表される前(10/10)までの期間(18日営業日期間)を分析期間とし、企業の累積収益率(cumulative return :CR)と企業の特徴との関係をみた。すると、CRと企業の売上高・輸出額比率、総資産・借入金比率、そして外国人持ち株比率が負の相関にあることがわかった。
一方、市場リスクを調整した、累積超過収益率(cumulative abnormal returns :CAR)を用いた分析も行った。市場リスクを調整することで今回の金融危機に特徴的な動きを捉えることができる。その結果をみると、CARは輸出シェアや外国人持ち株比率といった変数とは負の相関はなくなる一方、総資産・借入金比率とはCRと同様負の相関があった。また、CARはCRとは異なり北米やアジア輸出依存度や輸出先地域の集中度とも負の相関があった。図は、輸出地域が1つである企業と、輸出地域が4つ以上の企業のCARを比較しているが、前者のCARの方が分析期間を通じてほぼ一貫して低くなっていることがわかる。
以上の結果から、輸出企業や外国人持ち株比率が高い企業が危機時のパフォーマンスが悪いことは、今回の金融危機時に限ったものではなく、通常の株価下落時に観察される特徴であることがわかる。一方、総資産・借入金比率がCARとも負の相関があるとの結果は、借り入れ比率の高い企業へのマイナス影響が今回の危機の場合も顕著であることを示している。また、輸出企業が危機によるマイナスの影響を受けやすいのは今回の危機に限らない現象であるが、特定の地域へ輸出している、また、輸出先地域の集中度が高い企業がより悪影響を受けたことは、今回の危機固有の特徴と考えられる。
インプリケーション
したがって、今回の危機から得られた教訓としては、海外からの危機の伝播による影響をなるべく低く抑えるためには、企業の輸出市場の多様化、分散化が金融資産のポートフォリオ運用と同様にリスク管理の面から重要であることが指摘できる。これは今後の通商政策に対する新たな視点を示唆した結果といえよう。ただし、今回の分析はリーマンショック直後の株式市場における日本企業の将来パフォーマンスへの評価に基づいたものであり、実際の影響については、更に企業レベルデータを使った事後的パフォーマンスの検証が必要である。