ノンテクニカルサマリー

フリーライディングに頑強な国際環境協定

執筆者 古沢 泰治 (ハーバード大学 / 一橋大学)/小西 秀男 (ボストン大学)
研究プロジェクト 地球温暖化防止のための国際制度設計
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

隣接基礎研究領域A (第二期:2006~2010年度)
「地球温暖化防止のための国際制度設計」プロジェクト

環境問題に取り組むに当たって特に留意しなくてはならないのがフリーライダー問題である。地球温暖化防止のための国際環境協定を結ぶ場合にも、フリーライダー問題に対処し、フリーライディングに頑強な協定を結ぶ必要がある。たとえば、京都議定書の枠組みには、とても重要なプレーヤーであるアメリカと中国が参加していない。フリーライディングに頑強な協定を結ぼうとすれば、このように、重要なプレーヤーの参加をあきらめなくてはならないこともある。それではいったい、どんなグループがフリーライディングに頑強なのか? それは十分大きく、環境問題の解決に有益なものとなるのだろうか?

簡単な国際環境協力のモデルを組み立て、理論的に分析した結果、フリーライディングに頑強な環境グループは残念ながらごく少数の国家間からなるグループにとどまることがわかった。しかし、ここでは複数のグループが共存することを排除していないため、最適な安定的グループ構造は、世界がいくつもの少数のグループに分かれるものであり、各グループの中で国々は協力して環境問題に取り組むことになる。

このとき、グループ内で所得移転が可能かどうかによって、グループのフリーライディングに対する頑強性が変わってくる。グループ内で所得移転が可能なときは、グループ参加の誘因がプールされる効果があるため、そうでないときに比べフリーライディングに対する頑強性が上がる。従って、安定的なグループはより多くの国が参加する、より大きなものとなる可能性がある。

下図はAとBとCの三者による誘因のプールの様子を描いています。ここでは、BとCは、協力時の利得がそれぞれフリーライドしたときの利得を上回り、従ってBとCは3カ国からなる協力グループに参加する誘因を持つにもかかわらず、Aにはその誘因がないケースが描かれている。しかし、協定を実現させたいBとCが、協力を条件にAに所得を移転するならば、この三者による協力が実現する。図示されているように、BとCの協力への誘因(協力時の利得とフリーライディング時の利得の差)がAの負の誘因を上回るからである。誘因のプールにより、三者の協力が可能になるのである。

図

さて、本論文の貢献の1つとして、炭素税による国際環境協力と排出権取引による国際協力が、それぞれ所得移転がないケースとあるケースにおける安定的グループ形成と同値であることを示したことが挙げられる。所得移転があるケースの方がより大きなグループ形成が可能であることを考えると、このことは、炭素税による国際環境協力より排出権取引を用いた国際協力の方が、環境保全に対しより効果的であることを意味している。排出権取引を用いると、グループ内で誘因をプールできるため、効果的な環境協力グループに不可欠でありながらグループ参加に消極的な国も、グループ内に取り込むことができるようになる。そしてより大きなグループに属することにより、各国は汚染物質の排出をより抑えるようになる。

フリーライダー問題を考慮に入れると、京都議定書が目指したような世界レベルでの国際環境協定の実現は難しいことがわかる。地域的な国際協定を並列させ、それぞれの国際協定内では排出権取引により環境問題に取り組んでいくことが、現実的で効果的な取り組みだといえるだろう。