ノンテクニカルサマリー

労働・資本の質と生産性:従業員年齢、勤続年数、資本ヴィンテージの影響

執筆者 品田 直樹 (日本政策投資銀行)
研究プロジェクト 少子高齢化と日本経済-経済成長・生産性・労働力・物価-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

日本では、高齢化の進展や設備投資の長期的な抑制基調のもとで、企業の従業員年齢や資本設備のヴィンテージが上昇傾向にある(図1)。従業員の年齢や勤続年数、資本ヴィンテージによって、企業の生産投入要素である労働や資本の質が変化することが広く知られている。本研究では、日本の上場企業のパネルデータを用い、近年、こうした年齢やヴィンテージの推移が労働や資本の質を変化させることで、どのように全要素生産性に影響を及ぼしているかを実証した。

図1:従業員の平均年齢、資本のヴィンテージ
(サンプル企業の単純平均、単位:年)

図1:従業員の平均年齢、資本のヴィンテージ

その結果、(1)年齢や勤続年数の上昇は生産性の伸びを高めるものの、一定以上の年数を超えるとその効果は弱まること、(2)年齢やヴィンテージ等時間の経過に応じた労働・資本の質の変化が生産性の伸びに与える影響は90年代以降小さくなっていること、(3)同様の影響は非製造業より製造業で強くみられることが明らかになった。

日本では非正規雇用が増加しているが、それは労働市場の柔軟化と企業の雇用調整の円滑化に資する反面、労働技術・ノウハウの蓄積や継承という面での問題につながる。本研究では、平均勤続年数が10年未満の企業では、勤続年数の長期化が生産性の伸びに与える正の効果が弱くなっている。非正規雇用の比率が過度に上昇すると、生産性の伸びを損なう可能性もうかがわれる。

特に近年は若年層の非正規雇用が増加しているため、企業にとって、時間の経過に伴い必然的に蓄積されるタイプの技術への依存を減らす工夫が一層重要となる。そのため政策面でも、今後はより長期的な観点から、非正規雇用の増加が労働技術の蓄積や継承に及ぼす影響に配慮した制度設計が必要となろう。