ノンテクニカルサマリー

日本の中小企業の国際化に対して経営者の性質が与える効果

執筆者 戸堂 康之 (ファカルティフェロー)
佐藤 仁志 (研究員)
研究プロジェクト 「国際貿易と企業」研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

近年、企業の異質性を考慮した国際貿易理論によって、生産性の高い企業が国際化(輸出・海外直接投資)することが理論的に示されたが、現実には生産性の高い企業の多くが国際化しておらず、生産性の低い企業の多くが国際化している(下図を参照)。

図

この論文は、生産性以外の何が企業の国際化を決定しているのかを、日本の中小企業に対する調査によって得られた企業単位のデータを利用して、特に中小企業の経営者の性質に焦点を当てて分析したものである。この調査では、中小企業の経営者に直接そのリスク性向、時間性向、海外経験について質問しており、そのために他に類を見ないデータが得られている。その結果、経営者がリスク志向的であり、長期的な視野があり、海外経験があるほど、その企業は国際化する可能性が高いことが見出された。さらに、国際化していない理由を聞かれて、非国際化企業の40%以上が「必要性を感じない」と答えているが、経営者がリスク回避的であり、海外経験がないほど「必要性を感じない」傾向にあることも示された。つまり、生産性の高い中小企業であっても、経営者の慎重な性格や海外経験の欠如のために国際化に対して心理的に消極的になり、国際化していない企業が多くいることを示している。

また、生産性は輸出からの撤退に影響を与えないことも見出された。この結果は、輸出に必要な初期費用を支払っていったん輸出してしまえば、生産性とは関係なく企業は輸出し続けることができることを示しており、なぜ多くの生産性の低い企業が国際化しているのかの1つの回答を与えている。

この論文の結果は、リスクや海外とのネットワークが企業の国際化の大きな障害になっており、たとえば海外企業とのビジネスマッチングへの政策支援や留学支援、途上国援助が企業の国際化を促進することができる可能性を示唆している。なお、このような企業の国際化が日本経済全体にとってプラスとなるかどうかは、必ずしもこの論文からは明らかではない。しかし、多くの既存研究が国際化によって企業の生産性はさらに向上することを示しているため、企業の国際化を政策的に支援することは経済全体の生産性向上にも寄与すると考えられる。