執筆者 |
ショーン・アリタ (ハワイ大学) 田中 清泰 (日本貿易振興機構アジア経済研究所) |
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研究プロジェクト | 産業・企業の生産性と日本の経済成長 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
近年、世界各国で貿易・投資の自由化が進められた結果、経済のグローバリゼーションは目覚しい勢いで進展している。特に多くの企業は、海外直接投資によって海外市場に現地工場を設立するようになってきた。直接投資に関わる投資障壁が世界的に減少してきたことで、現地生産によって海外市場に展開する多国籍企業は著しい成長を遂げている。
多国籍企業による国際的な生産活動が台頭してきている一方で、投資母国における国内産業では企業の劇的な盛衰が展開されている。たとえば日本の製造業を観察すると、中小企業は衰退していく一方で、少数の大企業が海外進出などによって成長する構図が見えてくる。
この点を裏付けるため、1996年時点の企業規模別に製造業の全企業数と多国籍企業数を、1996年と2006年時点で表にした。データの測定誤差などによる問題はあるものの、3つの特徴が浮き彫りになる。第1に、製造業の全企業数は減少傾向にある一方で、多国籍企業の数は増加している。第2に、企業数の変化を企業規模別に見ると、中小規模の企業数は減少している一方で、大規模な企業数は若干増加している。第3に、多国籍企業の増加は比較的大きい企業規模に集中しており、多国籍企業に成長する中小規模の企業数は少ない。
世界的な貿易・投資の自由化は、日本を始めとする先進国の企業に大きな成長機会をもたらしたといえる。しかし、自由化された海外市場に参入してグローバルに成長できるのはごく一部の大企業に限られている。海外進出の大きな初期費用とリスクを負担することができない中小企業は、海外市場の潜在的な成長機会を知りながらも、なかなか現地生産にまで踏み切れない。海外市場の成長を取り込めない国内の中小企業に残されているのは、ますます激化する国内市場の競争であり、競争に負ける企業は市場からの撤退を余儀なくされる。
今後の展望として貿易・投資の自由化がさらに進展を続けることは疑いようがない。そのため、国内の中小企業が輸出や直接投資を通して海外市場の成長を取り込んでいくことが重要である。本稿のシミュレーション分析の結果によると、比較的生産性の低い中小規模の企業が海外進出できる市場は、日本からの投資コストがもっとも低い市場に集中している。たとえば、市場が大きく日本から近い中国や米国などが典型である。こうした市場向けの海外進出支援を、日本貿易振興機構などを通して進めていく事は、中小企業政策の1つとして重要性を増していくだろう。
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