ノンテクニカルサマリー

発明者の内発的動機と外発的動機

執筆者 大湾 秀雄 (東京大学)
長岡 貞男 (研究主幹)
研究プロジェクト 日本企業の研究開発の構造的特徴と今後の課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

研究開発者の研究意欲を高める動機づけ要因として何が重要なのかを理解することは、彼らの研究環境や待遇を規定する制度を設計する上で基本となる。研究開発生産性と発明者の動機の強さとの相関をみると(下表参照)、研究開発者の生産性を決定する要因の中で、科学への貢献意欲や、困難な問題の解決への興味といった内発的動機が極めて重要であることを示唆している。企業レベルの研究開発生産性を上げるためには、科学技術への貢献意欲が高く、チャレンジ精神の高い人材を集めるだけでなく、そうした動機付けを伸ばす自律的な研究環境の整備が求められる。

表:研究開発生産性と発明者の動機の強さとの相関
表:研究開発生産性と発明者の動機の強さとの相関

他方、発明報奨金の設計は注意深くなされる必要がある。内発的動機が低いと予想される場合には、金銭的報酬によって生産性が上昇する可能性があるが、既に内発的動機が高く自由度も高い職場で、金銭的報酬が提示されると、プロジェクトの選択が歪められる可能性が出てくる。つまり、本来選択するべき価値の高いチャレンジングな研究課題ではなく、成功確率の高い安全な研究課題を選択する方向に意思決定が歪められる。この問題を避けるためには、すべての発明に報酬を与えるのではなく、ブレイクスルーを起こして会社の利益に大きな貢献をもたらした研究のみに報奨金を払うか、もしくは発明報奨金ではなく事後的な昇給昇進という形で功績に報いることが必要であろう。

内発的動機の強さと発明報奨金の間に理論から予想される関係が、データ上は確認できなかったが、これは必ずしも上記の問題が存在しないことを示唆している訳ではない。むしろ、日本企業がインセンティブ契約としての発明報奨金の役割を十分に認識せず、特許法第35条への対応という側面のみを注視してきたことに由来する可能性が高い。本研究の対象期間の後、2000年代に発明報奨金の支出総額は急速に増加しており、これらの金銭的報酬の影響が研究開発生産性にどのような影響を与えるのか今後更なる分析を続ける必要がある。