ノンテクニカルサマリー

1952-2008年における中国の成長会計―データセットの再構築および成長パフォーマンスに関する検討―

執筆者 伍 暁鷹 (一橋大学経済研究所)
研究プロジェクト 産業・企業の生産性と日本の経済成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

中国の改革後における成長の要因に関しては、長い間白熱した議論が続いている。とくに、中国式の改革および成長パターンが問題として取り上げられる際はいつも、それが関心事となる。論争の焦点は、計画経済時代と比べて、改革開放後の経済成長が単に生産要素の投入増加によりもたらされたものであるか、それとも生産性の上昇の結果によるものであるかである。中国経済の世界経済に対する巨大な影響力からみれば、この問題を解明することは重要な意味をもつと考えられる。残念ながら、これまでさまざまな研究結果が報告されているものの、合意した結論にはまだ達していない。指摘すべき点は、今まで実証分析に用いられたデータの加工方法が不透明であり、加工方法によって推計結果が安定的ではないことである。

本研究の主要目的は、新古典派経済理論の枠組みの中で、既存統計データの問題を検討し、その改善と再構築を求めることである。具体的には、まず、データに関しては、いくつかの改善案を示したうえで、安定した改良および構築方法論を提示し、新たに推計した時系列データを報告する。労働に関しては、人数だけではなく、人的資本の蓄積を反映した労働の質の変化も推計する。産出に対しては、サービス業の推計に重点を置き、さらにMaddisonのゼロ生産性成長仮説についても再検討する。また、資本ストックに関しては、独自のデフレータおよび減価償却率を推計し、1950年代からデータを再構築する。次に、以上の推計結果を利用して、成長会計アプローチにより、戦後長期にわたる中国経済の成長過程におけるTFPを再計算する。その結果、改革開放後の時期に限定してみれば、全要素生産性が平均で0.3%であり、公式統計データに基づいて推計した3.1%より、遥かに低くなる。このことは、アジア諸国の経済成長パフォーマンスとよく合致していると考えられる。また、戦後長期における中国経済のTFP成長率の大幅な波動は政治体制と経済制度の変化の影響であると指摘される。中国が高い経済成長を持続していくためには、インプットの増加に依存するのではなく、TFPを向上させる政策を採ることが必要となってきていることを示唆している。

図:中国の経済成長に対する投入要素の貢献(%)
図:中国の経済成長に対する投入要素の貢献(%)