ノンテクニカルサマリー

価格決定力と生産性-サービス品質による差別化-

執筆者 児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
加藤 篤行 (リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

サービス産業の生産性向上は、人口減少が進む日本経済の持続的な経済成長にとって最重要課題の1つとされている。生産性向上のために経済産業省が実施する政策の効果は、サービス産業の生産性がどの程度向上したかで測られるべきである。その計測されるべき「生産性」とは何か? 多くの場合、労働生産性、資本生産性あるいはTFP(全要素生産性)が向上することをもって生産性が上がったと判断する。全要素生産性を直接計測することは難しいので、実際には、労働や資本を含む全ての生産要素の投入量と産出量の残差(ソロー残差)として計測される。単なる残差ではあるが、TFPの伸びを「技術進歩率」とも呼び、イノベーションやそれによって引き起こされる生産物の質的向上、技術的効率性向上などを反映していると理解し、このTFPが高いこと、上がることを政策目標とすることがある。しかし、現実には、「手作り」という技術効率の低い生産方法にこだわることでブランド価値を高め、高い価格付けを行うことにより利潤最大化を図る高級ブランドがある。この戦略も、条件によっては合理的な選択肢であるはずだ。

本稿では、生産性推計に広く用いられている要素シェアアプローチによるTFP計測の問題点について議論する。生産性推計に広く用いられている要素シェアアプローチでは、生産物(サービス)の無差別化、規模に関する収穫一定、生産物および生産要素に関する完全競争市場、規模に関する収穫一定、産物(サービス)の無差別化が仮定されている。本稿では、定性的なデータを用いて、生産物(サービス)の無差別化という強力な仮定を外したより現実に近い条件を与えたモデルに基づいて、TFPと価格決定力の関係性および価格決定力に影響を及ぼす差別化要因の探索を行う。

本稿の分析から、要素シェアアプローチによるTFPには価格効果も含まれていること、価格の違いがサービス品質に起因していること、価格に反映できるサービス品質とは、ブランド、専門性、新規性、独創性であることが明らかにされた。また、サービス業も一様ではなく、サービス業の中でも、対個人サービスは、要素シェアアプローチによるTFPが生産効率の指標としての生産性を反映しているということができる。つまり、本稿の結果は、対個人サービスでは、一定程度、サービスの無差別化を仮定しても良いことを示唆する。要素シェアアプローチによる生産性推計結果を政策議論において直接用いることが可能であることを示している一方、対事業所サービスでは、差別化の源泉と考えられるバイアスについて注意深く吟味することが肝要であることを明らかにしている。

図:価格反映状況別TFP(業種計)
図:価格反映状況別TFP(業種計)