ノンテクニカルサマリー

議院内閣制の理念と実態―憲法学と政治学の間で―

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

90年代の選挙制度改革や内閣機能の強化等の一連の改革は、英国型の議院内閣制を念頭において内閣のリーダーシップを図ろうという試みであったといえる。だが、英国型の特徴は、選挙で選出された議会多数派によって構成される内閣が、実質的に立法府と行政府を掌握し、首相の強いリーダーシップの下で強力な政治を行う仕組みである。つまり、立法府と行政府の権力の融合を特徴としている。

現行憲法は、議院内閣制を採用したが、同時に権力分立を重要視し、国会と内閣との関係を均衡の関係としてとらえており、両者の協働(特に、国会における内閣の関与)が十分に位置付けられたものとなっていない。その結果、国会の多数派が内閣を形成し、内閣に権力が集中するという議院内閣制の特徴を発揮することが妨げられてきており、そうした方向性を目指せば、必然的に憲法上の問題点を提起することになる。

また、戦後制定された国会法は、米国の影響もあり、議院内閣制下の議会の特徴、すなわち、内閣提出法案の成立を巡った与野党間の攻防(アリーナ型議会)ととらえず、むしろ、議会そのものが多様な意見を注入し、法律へと変換して自律的に立法を行うという議会像(変換型議会)のもとに作成されてきたため、国会の中に内閣の役割を位置付けるという発想はない。

55年体制の下で確立してきた現実の議会運営は、制度上国会と内閣とを分離する中で、与党が内閣提出法案の成立に向けて野党との折衝を担う形で発達し、それを梃子として、与党審査という国会の外で与党による内閣提出法案への審議手段を確保してきた。そして、その結果、議院内閣制を採用する諸外国と比較すると、国会での立法過程において、内閣と与党との間での法案修正が行われないという特徴を持っている。

今必要なのは、議院内閣制下の議会像にたって、55年体制のもとで形成されてきた国会法をはじめとする議会運営のルールを作りなおすことである。具体的には、国会における内閣提出法案を巡る与野党間の議論を可能とする仕組み、つまり、少数会派に対しても、議案提出権、質問権、調査権等を拡充するとともに、そのための十分な審議時間を確保できるようにすること、そして、そうした与野党間での議論の中に内閣の関与を認め、内閣提出法案の国会における機動的な修正を可能とすることにより、内閣提出法案の修正過程を国会内に戻し、国会での与野党審議を見えるようにすることである。そのためには、従来の憲法学における三権分立的構想を見直すとともに、国会の中における政党・会派の地位や権限の明確化等につながる憲法学の解釈の変更が必要とされるであろう。