執筆者 |
倉田 健児 (コンサルティングフェロー) Youn-Hee CHOI (ヴィジティングスカラー) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
問題意識
再生医療とは、失われた人体機能を人体組織の利用によって再生する医療である。根治療法として、その発展が強く期待されている。一方で、再生医療を研究する医師等の研究者、さらには再生医療の社会への普及を産業化によって図ろうと試みる企業家からは、日本における再生医療の実用化は必ずしも円滑に進んではいないとの指摘がなされることが多い。そのような指摘は日本の現状を正しく反映しているのだろうか。そうであるとするならば、その要因は何なのだろうか。これらの点を明らかにするために、日韓両国の比較分析を行った。
分析結果のポイント
実用化という観点から薬事承認を得ている再生医療製品の状況を見ると、日本では皮膚の1社1製品だけであるのに対し、韓国では皮膚で3社4製品、軟骨および骨で2社3製品、合計5社7製品が薬事当局の承認を得て、再生医療製品として製造販売(上市)されている。その背景として研究段階の活動状況を論文の数で見れば日韓両国ともアメリカ、ヨーロッパに次いで相応の地位にある。一方で両国間で比較を行えば、日本の研究活動が韓国のそれを大きく凌駕している。このことからは、日本の研究段階での成果は、韓国に比べ必ずしも十分に実用化に結びついていない状況にあるといえる。
こうした検討の結果を前提に、日本および韓国の薬事に関する規制枠組みの比較検討を行った。その結果、基本的には両国で同一の規制枠組みであるものの、研究段階での成果を実用化に結びつける上で非常に影響が大きい相違が存在すると考えることができる。それは、製造販売承認を受けていない新たな医薬品等をヒトに投与するためのパスが、韓国では研究段階(臨床研究)であっても実用化を目指す試験段階(臨床試験)であっても、薬事当局であるKFDAの審査に基づく1本である。これに対して日本では、臨床試験が薬事当局であるPMDAの審査に基づいて実施される一方で、臨床研究は医師法の枠組みの中で実施される。いわば、2本のパスが存在するのである(下図参照)。
インプリケーション
実用化を通じて再生医療の社会への普及を図る上では、図に示した第1のパスを経由することが必要となる。しかしながら、2本のパスが存在する日本の現行制度は、第2のパスである臨床研究の成果を第1のパスに繋げるという観点からは必ずしも有効に機能していない。臨床研究と臨床試験双方の審査を担うことでKFDAは、日本におけるPMDAの位置付けとは異なり、実際に行われた臨床研究の詳細を把握することになる。これにより臨床研究成果の活用の幅は明らかに広がり、その後の臨床試験へと繋がり易くなることが期待される。こうした韓国の例を見るまでもなく、日本においても臨床研究に対する審査を薬事当局であるPMDAが実施することによって、日本の優れた臨床研究成果の臨床試験への利用の促進が期待される。すなわち、既存の2本のパスをPMDAに統合することが、再生医療の普及を促進する上での有効な制度的方策といえる。