ノンテクニカルサマリー

公的年金の税方式化の経済効果

執筆者 橋本 恭之 (ファカルティフェロー)
木村 真 (北海道大学)
研究プロジェクト 社会経済構造の変化と税制改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

本稿では、公的年金の税方式化に関する既存研究を整理したうえで、税方式化の短期的、長期的な経済効果をシミュレーションした。本稿で得られた結果からは以下のようなことが示唆される。

税方式化は、経済学的には、財源調達手段として、比例的な労働所得税から比例的な消費税へ移行するものである。労働供給が固定的に近いような状況を考えると労働所得税での課税のほうが超過負担は少なくなる。消費税での税方式化の優位性は、長期的な効果として生じるものだ。新古典派成長モデルを前提にすれば、消費税による税方式化は、経済成長率を引き上げることにつながる。ただし、その経済成長率の上昇は、現役世代の消費が抑制されるためであり、総消費でみた厚生水準は税方式化に伴い当面の間低下することになる。

図は、現行制度を維持した場合と税方式化した場合の消費水準の差額を1960年生まれから2020年生まれまでの各世代について描いたものだ。1960年生まれの世代は、2011年時点においては、51歳に到達している。退職までの10年間だけは社会保険料の引き下げの恩恵をうけることになる世代である。しかし、この世代の年齢別消費は、勤労期間においても、保険料引き上げによる効果を消費税率引き上げ効果が相殺し、税方式化された場合にはわずかながら年齢別消費水準が低下し、消費税率引き上げのみの影響を受ける退職後の期間において税方式化にともなう消費水準の低下がみられることになる。2000年生まれの世代は、労働市場に参入すると仮定した23歳時点では2023年であり、生涯にわたって税方式のもとで暮らすことになる世代である。この世代についても勤労期間においては税方式のもとでの消費水準は、現行維持の場合とほぼ同じとなり、退職後の期間において税方式化したほうが消費水準は低下することになる。2020年生まれは、これから生まれる将来世代である。この世代については、勤労期間において税方式化したほうが消費水準は高くなる。しかし、退職後の期間についてはやはり消費水準を低下させることになる。このように、各年齢別の消費水準だけをみると税方式化はここでみたほとんどの世代について低下させることとなる。

図:生年別にみた消費の変化(差分)
図:生年別にみた消費の変化(差分)

消費税による税方式化は、長期的にみても効率面から考えると、現役世代にとっては魅力的な政策とはいえない。ただし、本稿での分析ではすべての家計が勤労者であるという仮定にもとづいており、自営業者等の勤労者以外の被保険者による未納問題を考慮していない。消費税による税方式化は、未納問題解決については魅力的な政策である。ただし、消費税については、財政再建のための財源としても期待が寄せられており、消費税の逆進性の問題も考えるとこれらの財源のすべてを消費税に求めるわけにはいかない。税方式化に際しては、相続税の増税など消費税以外の補完的な財源調達手段も検討すべきであろう。