ノンテクニカルサマリー

水産エコラベリングの発展可能性―ウェブ調査による需要分析

執筆者 森田 玉雪 (山梨県立大学)
馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 水産業における資源管理制度に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

水産エコラベリング制度は、持続可能な漁業を行う漁業者の水産物を他の漁業者の水産物と差別化する制度である。この制度が機能すれば、消費者は間接的に資源保護へ関与するという動機から、ラベル貼付水産物を選択的に購入するようになる。これにより漁業者も、安定的な需要の増加という見通しを得られるため、短期的な漁獲量の削減などの資源保護に伴うコストを受け入れ、資源保護へ積極的に取り組むことができる。

イギリス・北欧など海外では既に成功裡に普及している水産エコラベリング制度も日本では未だ緒に就いたばかりである。日本で水産エコラベルの普及が遅れている要因として、一部の水産資源の危機的状況に対する消費者の認識が海外と比較して相対的に低いこと、数多くの虚偽表示問題などの経験からラベルに関する信頼度が低いこと、などが考えられる。そこで、本研究では、ウェブ調査を通じてそれらの要因が実際に存在しているかどうかを検証した。

結果として、日本の消費者は資源量に関する情報に接する機会が限られており、資源量に関して信頼できる興味深い情報が得られれば、消費者も資源保護へ協力したいと考えるようになることが明らかとなった。日本における水産エコラベリングの発展のために本研究が示唆する条件の1つは、資源量に関する正確な情報を消費者が興味を持つような形で提供していくことである。

なお、たとえ、消費者が水産資源に対する認識を高めるようになったとしても、「ラベル」に対する消費者の信頼感を獲得できなければ、水産エコラベリング制度はその効果を期待できない。本調査では、有機農産物のラベルに不信感を抱いている回答者は、エコラベルに対価を払いたくないという傾向を持つことがわかった。本研究が示唆するもう1つの条件は、虚偽表示問題等の経験からラベル不信に陥っている消費者からも納得が得られるように、認証機関の中立性を確保し、制度の情報開示を積極的に行うことである。

なお、水産エコラベリングが制度として機能するためには、資源量に配慮して漁獲された水産物を他の水産物と区別して消費者に届ける流通業者の役割も重要になる。そこで、付論として、日本の流通業者(卸・中卸)を対象としたアンケート調査の結果も記載した。これによれば、流通業者は日々の取引から資源量の減少を肌で感じており、漁獲制限などによる資源保護の必要性を強く認識している。現状では水産エコラベリング制度の仕組みとその趣旨については周知されていないが、それらが周知されれば、流通業者の協力が得られる可能性が高いことも示唆された。