ノンテクニカルサマリー

医療・介護保険の費用負担の動向

執筆者 岩本 康志 (ファカルティフェロー)
福井 唯嗣 (京都産業大学)
研究プロジェクト 社会経済構造の変化と税制改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

わが国の税制のあり方を議論する上で、将来に増大する社会保障費用をまかなうための税負担増がこれから避けられないことは、非常に重要な前提条件となる。そのために、消費税の引き上げ等が必要になってくるという方向性については広く共有されてきているが、長期的に見てどれだけの財源が必要となるかについては、検証される機会が少ない。

最近では、2008年10月に社会保障国民会議が発表した「社会保障の機能強化のための追加所要額(試算)」において、年金・医療・介護・少子化の4分野で将来に必要となる追加負担が推計され、2025年度には消費税率換算で6%程度になると推計されている。このうち医療・介護の占める割合が大きく、消費税率換算で4%程度の財源が必要になるとしている。

しかし、2025年は、わずか15年先の将来であり、わが国の高齢化はそれ以降も進展する。そのため、より長期の社会保障の公費負担の動向を把握することが重要である。たとえば、欧州連合ではより長期間の社会保障、教育等の人口に依存する財政支出の予測を行い、財政の持続可能性を検証する作業を定期的に行っている。

本稿は、筆者が開発した医療・介護保険財政モデルの最新版(2009年9月版)を用い、2008年10月に発表された社会保障国民会議の医療・介護費用のシミュレーションではカバーされない、より長期的な視野からの社会保障の公費負担の動向について分析する。

図:公費・保険料負担の将来推移(対GDP比)
図:公費・保険料負担の将来推移

上の図は、社会保障国民会議の基準ケースに沿って、2105年まで延長推計した保険料負担と公費負担をそれぞれ対GDP比で示したものである。

社会保障国民会議は、医療・介護費用に対する公費負担は、2007年度から2025年度までGDPの1.8%増加すると推計した。本稿では、2025年度から2050年度にかけて、公費負担は医療がGDPの1.25%、介護が1.05%増加すると推計された。また、2050年度以降も約20年間にわたり、公費負担の総額は上昇を続ける。

生活の質に直結する医療・介護サービスを削減することは容易ではなく、効率化の一層の努力が図られるにしても、医療・介護費用に対する継続的な公費負担の増加が発生するものと考える必要がある。長期的視点にたった税制のあり方を検討する際には、このことを考慮に入れて、安定的な財源確保の手段を考えるべきである。また、その際に必要な情報として、政府による社会保障費用の推計は2025年度までとせずに、少なくとも2050年度までの推計を公表すべきである。

同時に、税か保険料かの財源調達の手段についても、費用増加の視点からの検討が必要である。後期高齢者に重点的に公費が投入されていることから、公費負担の伸び率は保険料の伸び率よりも高い。このため、税による財源調達がより困難になることが予想される。したがって、給付と負担の関係が相対的に明確な保険料での財源調達の余地を大きくし、公費負担の比重が小さくなる方向への改革を検討する必要がある。

本稿では医療・介護保険への積立方式を導入するシミュレーションを行っているが、負担と給付が同世代で対応する要素を増やすことは、そうした方向性をもつ改革の1つであるといえる。現行制度のまま均衡財政方式で運営すると、将来の保険料率と税負担率が次第に高まっていくため、将来の世代ほど生涯負担率が大きくなっていく。積立方式への移行は、この負担格差を平準化することにも役立っている。