ノンテクニカルサマリー

中規模動学確率一般均衡モデルにおける名目の硬直性と将来のニュースによる景気循環

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識

将来に関するポジティブな期待の変化(ないしはニュースの到来)によって起こる好況(消費・投資・労働・生産の上昇)は、現代のマクロ経済学では「News-Driven Business Cycle(以下NDBC)」と呼ばれている。この理論では、実体経済に何ら変化がなくとも、期待の変化のみで景気変動が起こるため、バブルの発生と崩壊を説明する理論になりうると近年注目を浴びている。

本研究のアプローチと得られた結果およびその解釈

本研究では、各国の中央銀行などで政策分析に使用される中規模動学確率一般均衡モデルを用いて、NDBCがどのような要素によって発生するかを分析した。このモデルは、消費の習慣形成や投資の調整費用、名目価格・賃金の硬直性などさまざまな要素が盛り込まれた最新鋭のモデルである。

図1の青線は、人々が将来の生産性上昇を期待した(ないしはニュースを得た)ときのマクロ経済の反応である。0期に「4期に(1年後と解釈)生産性が1%上昇する」と人々が期待を持ち、0-3期まではそれを信じて行動するが、4期にはその期待が間違っており、生産性の上昇は起こらなかった、というストーリーを仮定している。青線では、生産、消費、労働および投資が0期から上昇し始めて好況になるが、4期以降期待が誤っていることが判明すると、不況になることが読み取れる。一方、赤線はこのモデルから価格と賃金の硬直性を除いた場合の反応だが、消費は上昇していない。また、消費などの変動幅が小さくなっている。従って、名目価格・賃金の硬直性はNDBCの重要な要素であり、景気変動を大きくする要因だと分かる。

では、価格と賃金のどちらが重要なのか? 図2はその疑問に答えるものである。この図も図1と同様に期待の変化のマクロ経済への影響だが、青線は価格のみが硬直的な場合、赤線は賃金のみが硬直的な場合を表している。図からは、NDBCが生じるのに重要なのは、名目価格の硬直性だと読み取ることができる。但し、名目賃金の硬直性は消費の変動幅を大きくする役割がある。

図1:名目の硬直性と期待の変化(ニュース)に対する反応(1)
図1:名目の硬直性と期待の変化(ニュース)に対する反応(1)
図2:名目の硬直性と期待の変化(ニュース)に対する反応(2)
図2:名目の硬直性と期待の変化(ニュース)に対する反応(2)

政策インプリケーション

上記から、名目価格の硬直性がNDBCに重要な要素であることと,名目賃金の硬直性が消費の変動を増幅する働きを持つことが分かった。よって、バブルに立ち向かう際の政策運営の際では名目価格・賃金の硬直性を考慮に入れる必要がある。通常の景気循環では、名目価格・賃金の硬直性に対して、金融政策当局のインフレと賃金インフレに厳しい態度で臨むべきだと言われている。通常の景気循環だけでなく、将来の期待の変化に伴うバブルの問題に対しても、金融政策当局のインフレや賃金インフレに臨む姿勢が今後重要になってくると示唆される。