ノンテクニカルサマリー

船隻規模の選択が可能なもとでの譲渡可能な漁獲割当(ITQ)の効率性-実験経済学アプローチ-

執筆者 東田 啓作 (関西学院大学)/馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 水産業における資源管理制度に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

水産資源管理の手法には、大きく分けてテクノロジーコントロール、インプットコントロール、およびアウトプットコントロールの3種類がある(図1参照)。

図1:水産資源管理の手法
図1:水産資源管理の手法

この中のアウトプットコントロールである、TAC(漁獲総量制限)とITQ(譲渡可能な漁獲割当)との組み合わせが注目されている。過去20年の間に、ニュージーランド、アイスランドなどいくつかの国々においてこの手法が取り入れられてきた。この方法は、これまで考えられてきた水産資源管理の中で最も効果的な手法の中の1つと考えられている。

その理由の1つとして、一定量の漁獲のための総費用を最小にすることができるという点を挙げることができる。これにより、過剰投資とそれによる「早い者勝ち」の過当競争を避けることができる。一方で、漁業者の寡占化が進む、漁獲割当の価格変動が投機的要因により大きくなりすぎる、といったITQの短所も指摘されている(図2を参照)。

図2:ITQの長所と短所
図2:ITQの長所と短所

より効果的な水産資源管理の必要性が指摘されている日本において、ITQが機能するかどうかを分析しておくことは重要である。本稿では、実験経済学の手法を用いて、「ITQ市場が効率的に機能するのか」、および「ITQ市場のもとで、漁業者の船隻規模の選択は合理的に行われるのか」の2点を考察している。

得られた主な結論は、以下のとおりである。
1)ITQ市場は効率的に機能する可能性が高いが、場合によっては望ましい価格水準に到達するまでに時間がかかる。
2)船隻規模の選択は合理的に行われるが、それが社会的に望ましい水準になるかどうかは、ITQ市場の価格の変動、および望ましい価格水準からのずれの程度が、小さいことが条件となる。
3)初期時点における漁獲割当の価格が、その後の漁獲割当価格や船隻規模の選択に重要な影響を与える。

これより、政策インプリケーションとしては次のような点が挙げられる。
1)ITQ市場の価格が効率的に決まるようにするためには、既存文献で指摘されているとおり投機的な取引を一定程度制限する必要があるかもしれない。たとえば、永久漁獲割当の取引に入る前に、短期の漁獲割当の取引市場(リース市場)をスタートさせるなどの方法が考えられる。
2)過去の割当の市場価格に依存して船隻規模の意思決定が行われるという意味で、船隻規模の選択が合理的であるという結論が得られている。このため、船隻規模の選択については、税・補助金などのインセンティブ手段、あるいはインプットコントロールを合わせて用いていくことによって、効率的な産業構造により早く到達することができる可能性がある。