ノンテクニカルサマリー

オフショアリングと本社部門:日本の企業データによる実証分析

執筆者 冨浦 英一 (ファカルティフェロー)/伊藤 萬里 (研究員)/若杉 隆平 (研究主幹)
研究プロジェクト 日本企業の海外アウトソーシングに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易自由化や情報通信技術の普及に伴って、企業は、汎用品の輸入にとどまらず特注部品等の多様な中間財、サービスの海外調達(オフショアリング)を活発化している。オフショアリングに際し、対外的な調整のため、企業は本社機能を強化する必要があると考えられる。しかし、要求される本社機能はオフショアリング先により異なると予想されることから、オフショアリング先企業を、自社の海外子会社、日系他社の海外子会社、海外企業に分類した日本企業に関するミクロ・データを用いて実証分析を行った。

今回用いたRIETIの調査によると、日本企業のオフショアリング先として、自社の海外子会社、海外企業に比べ、日系他社の子会社が少ないことが明らかになった(それぞれオフショアリング企業の50%、60%、23%)。このことは、日本企業は日本企業同士の閉じたネットワークの中で互いにオフショアリングし合っているという状況にはもはやないことを示している。

しかし、企業レベルの各種変数を加え企業特性をパネルデータ形式で制御した推定結果によると、自社の海外子会社に多国籍企業内でオフショアリングしている企業に比べ、他社(日系、海外問わず)にアウトソーシングしている企業では、従業者に占める本社機能部門の割合が有意に高い傾向があることが見出された(下表参照)。これは、国籍や言葉・商習慣の違いよりも企業の境界(所有権)がオフショアリングする日本企業の本社規模の決定に重要であることを示しており、日本企業がオフショアリングのメリットを十分に享受するには、本社のスリム化や他社とのビジネスに関する社内業務の見直しが必要であることを示唆しているとも解釈できる。本研究成果が、日本企業のアウトソーシング支援に関する今後の政策論議につながっていくことが期待される。

調達先企業の類型 オフショアリングのダミーのみ 各種企業特性も制御
自社の海外子会社 0.3394 (0.5311) 0.5560 (0.5487)
日系他社の海外子会社 0.9899 (0.7386) 1.6142 (0.7416)
海外企業 1.2308 (0.5044) 1.0818 (0.5122)
国内企業 ----- 0.9081 (0.3196)
(注)被説明変数は従業者数に占める本社機能部門%。カッコ内は頑健標準誤差。