ノンテクニカルサマリー

技術市場におけるバーゲニング-バイオテクノロジーに関するアライアンスに関する実証研究-

執筆者 絹川 真哉 (駒沢大学)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト オープンイノベーションに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

問題意識と研究手法

バイオテクノロジーの進展や国際的な新薬開発競争の激化によって、製薬業界の研究開発プロセスが大きく変化してきている。その関係で最も象徴的なのが医薬品に関するライセンス数の増加である。本章は、Deloitte Recap LLCのRDNAというバイオテクノロジー分野におけるアライアンスに関するデータを用いて、技術の売り手と買い手の間のバーゲニングモデルを推計し、両者の間の相対的なバーゲニング力の強さを推計した。 ここで、技術の売り手は主にバイオベンチャー、技術の買い手は製薬企業である。また、RDNAデータベースは米国における証券市場の技術取引公開ルールに従って開示された情報を元にしていることから、主に米国の企業を対象にした分析となっていることに留意が必要である。

分析結果

買い手と売り手のバーゲニング力(買い手がu、売り手がw)の時系列変化を見たものが下図である。全体的に買い手のバーゲニング力(契約価格を押し下げる方向)が大きい「買い手市場」となっている。ただし、最近では売り手のバーゲニング力も上昇傾向にあり、多くの製薬会社において主力製品の特許切れがここ数年で続出し、医薬品候補品が品薄になっていることを反映していると考えられる。また、売り手や買い手のバーゲニング力を企業の国籍別で比べると、米国企業に比べて日本企業の交渉力が小さくなっている。

図 技術市場の買い手(u)と売り手(w)のバーゲニング力の推計結果
図 技術市場の買い手(u)と売り手(w)のバーゲニング力の推計結果
(注)バーゲニングモデルの推計結果を時系列でまとめたもの。買い手の交渉力(u)は価格を押し下げる方向に働き、売り手の交渉力(w)は価格を押し上げる方向に働く。それぞれについて絶対値が大きいほど交渉力が強いことを示している。

インプリケーション

ここで用いたデータベースは米国企業を中心としたものであり、日本企業の場合、交渉相手が米国企業となることが多く、言語や地理的な面でハンディキャップを負って交渉していることが原因となっていると考えられる。米国と比べて日本においてはバイオベンチャーの動きが遅れているが、オープンイノベーションが重要となっている製薬産業の競争力を考える際には、日本におけるバイオ産業の振興もセットで考えることが重要であることを示している。